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仕事のお悩みに効く、“読むくすり”。処方薬的ビジネス本

立場を問わず直面しがちな10の症状とそれを克服するための“読むくすり”をピックアップ。長年愛されてきた一冊から、今後注目すべき未来予測の本までご案内。ピンとくるものがあれば、一服もとい一読を。考えを深める一助になるに違いない。

photo: Kazuharu Igarashi, Hikari Koki / text: Ryota Mukai

必要なのは今を映す鏡か?バイブル的名著か?

監修:水野俊哉(作家、出版プロデューサー)

“読むくすり”としてのビジネス本を選んでくれたのは水野俊哉さん。読書量豊富で、ビジネス書のプロデュースも手がけるその道のプロだ。この手の本と向き合う時に重要なのは、多くの本を読むことだという。

「新たなスキルを身につけたい時は、関連する本を手当たり次第に開いてみましょう。すべて買わなくとも、まずは書店に行って気になるタイトルの目次だけを読んでみる。数冊目を通してみれば、その分野で重要なことが見えてきます。慣れてくると、関心のあるカテゴリーでの“クラシック”がわかるようになるはずです。

というのも、ビジネス本の多くは元ネタとなるバイブル的なロングセラーがあるもの。マネジメントにまつわるものなら、ご存じピーター・ドラッカーの『マネジメント』に多かれ少なかれ影響を受けているといった具合に。もちろん新たに生まれる本が単なるコピーで、必ず古典がよりよいというわけではありません。現代に必要とされるポイントをより詳細に説明したり、古くなった箇所を時代に合わせてブラッシュアップしてくれていますから。

では、古典の魅力はなんでしょうか?多くに共通するのは、一見曖昧な物事を定義づけてくれることです。マネジメントしかり、コミュニケーション、アイデアなど、具体的にどういうものかを説明してくれるんですね。その分、骨の折れる読書にはなるけれど、学びは深くなる。今、自分に必要な本はどちらのタイプか判断できるようになれば、よりよくビジネス本と付き合っていけるはずです」

症状1:リスキリングの重要性に、いまひとつピンときていません

老いの克服が生む人生の新たなステージのためと考えて

確かに、すぐに転職しなければならない人でもない限り、リスキリングは必要のないことだと感じられるかもしれません。でも人生100年時代、と言いますよね。『LIFESPAN』が教えてくれるのは「老いは治療できる病気である」ということ。本著によれば「治療」技術が向上すれば50年後には平均寿命が113歳になるとも推定されています。そうなれば、生き方に大きな変化が生まれる。

その変化を描くのが『LIFE SHIFT』。これまでは「教育、勤労、引退」の3つのステージを皆が生きてきたとしたうえで、今後は新たなステージが登場するといいます。1945年生まれのジャック、71年生まれのジミー、98年生まれのジェーン、3人の人生をモデルケースとして追っていくから、物語調で読みやすく説得力も十分。寿命が延びて、ライフステージが増えるとわかれば、リスキリングする気になるのでは。

症状2:一人でじっくり企画書を書こうとしてもアイデアが浮かびません

不朽の理論を学び、多様なツールを使いこなしてみよう

『アイデアのつくり方』はその名の通り、いかにしてアイデアを生み出すかについての本。原著の発行は1940年と80年以上前の本ではありますが、その内容は全く色褪(あ)せません。手順は次の5つだけ。資料を集め、整理し、いったん忘れてしまう。

すると、思わぬ時にアイデアが浮かぶ。最後の一つはその具現化。いったん忘れる間には、事件を調べる合間のシャーロック・ホームズよろしくパーティに出かけるなどして刺激を受けるのがいい、というような軽妙な語り口も魅力。エッセイのようにも楽しめる。

『考具』では、先述の5つのうち資料収集と整理に生かせるような、21の方法が挙げられています。色をヒントに様々なアイテムを収集する「カラーバス」や、シンプルなフォーマットで整理する「マンダラート」、もちろん企画書の書き方も紹介。一人でもすぐに試せるツールの宝庫なのです。

症状3:成功確率0.1%くらいになってしまった交渉案件を抱えています。一発逆転のマジカルな方法ってありませんか?

推奨はしませんが、最終手段は超強気の一手のみ

絶体絶命ですね。でも方法はきっとある。ご存じ、スティーブ・ジョブズは非常に身勝手な人間でもありました。本書は、社内外の覇権争い、ビートルズとの法廷闘争から音楽産業参入の顛末等、彼が成功させた交渉の数々を紹介する一冊。

驚くのはそのはちゃめちゃぶり。例えば、仮契約済みの巨額の設備投資が不要になった時、いかに破棄するか?答えは簡単、無視するんです。決して真似してはダメだけど、参考になるはずです。

『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力 この「やり口」には逆らえない!』竹内一正/著
『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力 この「やり口」には逆らえない!』竹内一正/著
かつてアップルでも働いた著者が語る、ジョブズの交渉録。その相手はビル・ゲイツ、ディズニー、メディアに及ぶ。当時、ジョブズが下した判断から教訓を引き出す。経済界/800円。

症状4:目の前の仕事に追われがちだけど、より広い視野で「経済」を学び直したい

内容が深く、易しい一冊から始めましょう

今、経済について広く学ぶことは個別のビジネス以上に大切なことかもしれません。それは私たちが暮らすこの世界に実質的に関わることだから。経済格差の起源を1万年前の世界に読み取り、市場社会の誕生、果ては自然の商品化を通した環境問題までをも語り尽くす本書はこのことをずばり教えてくれます。その視野の広さもさることながら、「資本主義」などのワードを使わずに語られる平易な語り口が魅力的な一冊です。

『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』ヤニス・バルファキス/著、関 美和/訳
『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』ヤニス・バルファキス/著、関 美和/訳
著者はギリシャの経済危機時の財務大臣。ギリシャ神話からゲーテの『ファウスト』、映画『マトリックス』と古今東西の知を参照しながら語る経済史。ダイヤモンド社/1,650円。

症状5:ちょっとしたスモールトークはまだしも、セールストークとなると緊張してしまって普段のように話せません

話すばかりでなく、聞くことも意識して

人付き合いの名著といえば、D・カーネギー『人を動かす』。人を動かす、人に好かれる、人を説得する、人を変えるという4つのテーマからコミュニケーションのコツを語ったものです。これを繰り返し読んだという著者がまとめたのが本書。

ただ一方的に話せばいいわけではありません。感嘆→反復→共感→称賛→質問で相手に9割をしゃべらせる「拡張話法」など実例と実践した人のエピソードを挙げつつ、聞き方も教えてくれる一冊です。

『人は話し方が9割』永松茂久/著
『人は話し方が9割』永松茂久/著
たこ焼きの行商を経て飲食店経営者になった著者による一冊。「苦手な人との会話を避け、大好きな人と話す時間を増やす」をはじめ、話がうまくなる37ヵ条を収録。すばる舎/1,540円。

症状6:社歴も重ねて、後輩も増えてきました。正直、合う合わないはあるけれど、仕事だから贔屓(ひいき)はしたくなくて……

ストイックな管理職になってみる

態度を決めきれないなら、いっそ仮面を着けてしまうのはどうでしょう?本書では、マネジャーが目をつけるべきポイントは、ルールの遵守、距離を置いた立ち位置、利益目標、プロセスではなく結果、そして成長しているか?だと言います。

この5つだけを見て、ほかのことを考えないことを「仮面を被る」と表現しているのです。ストイックな方法ではありますが、自分なりのマネジメント術を生み出せるきっかけになるのではないでしょうか。

『リーダーの仮面「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』安藤広大/著
『リーダーの仮面「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』安藤広大/著
組織内で誤解が生まれる理由と、その解決法を明らかにする「識学」を広める著者による本。各章に実践編として具体的なタスクも掲載している。ダイヤモンド社/1,650円。

症状7:マーケティングの方法論が多様すぎます。もはやどれが私にぴったりなのかわかりません!

方法論の源泉、マーケターの古典に頼ってみる

バイブルといわれるこの一冊。「新訳」とある通り、かつて邦訳が出ています。絶版になって以降、本書を基にしたマーケティング論が様々に登場しました。いわばネタ本なのです。ごく単純に言えば、「ビジネス=顧客の問題解決」と考えたはしりの一冊。

ビジネスの計画から現状把握、投資、試行錯誤の方法を順を追って解説。ほとんどの章に手をつけるべき「アクションステップ」が付いているので、気に入ったものから試してみましょう。

『新訳 ハイパワー・マーケティング あなたのビジネスを加速させる「力」の見つけ方』ジェイ・エイブラハム/著、小山竜央/監修
『新訳 ハイパワー・マーケティング あなたのビジネスを加速させる「力」の見つけ方』ジェイ・エイブラハム/著、小山竜央/監修
ビジネスコンサルタントによる一冊。新訳版ではネットマーケティングに関する章も追加収録。本著を実践した実業家、金森重樹さんによる監修版もおすすめ。KADOKAWA/2,310円。

症状8:商品の魅力を余すことなく伝えているはずなのに、いまひとつ成果に結びつきません

お客さんの気持ちを心理学で覗いてみましょう

視点を変えてお客さんの立場で考えてみましょう。そもそも人はどうやって買うものを決めるのか?大抵の場合は直感に頼っていると思われていますが、本書ではこの理由を社会心理学者が実験を通して明らかにします。

ギブ・アンド・テイクこと返報性、一貫性があること、社会的証明があること、好意を持っていること、権威、そして稀少性の6つのカテゴリー。実際のエピソードとともに語る、読み応え十分な一冊です。

『影響力の武器[第三版]なぜ、人は動かされるのか』ロバート・B・チャルディーニ/著、社会行動研究会/訳
『影響力の武器[第三版]なぜ、人は動かされるのか』ロバート・B・チャルディーニ/著、社会行動研究会/訳
訪問販売をつい買いがちな社会心理学者が、セールスマンらの立場に立ち「承諾誘導」のテクニックを考察。第3版では読者からのレポートなどが追加収録された。誠信書房/2,970円。

症状9:伝えたいことは書けているはずだけど、読み手によらず魅力的な文章なのか自信がありません

内容だけでなく、見せ方にもこだわりを持って

セールスライティングの指南本として古典的な一冊。著者はダイレクトマーケティング、つまり企業が顧客と直接コミュニケーションを取る販売手法において全米で大きな成果を上げた人物です。

カタログ販売などでの文章術に定評がある、というと内容が古いんじゃないか?と思うかもしれませんが、彼が紹介した技術はネットとも親和性が高い。書き方と見せ方の44に及ぶテクニックであなた自身が書いた文章の解像度が上がるはずです。

『全米No.1のセールス・ライターが教える10倍売る人の文章術』ジョセフ・シュガーマン/著、金森重樹/監訳
『全米No.1のセールス・ライターが教える10倍売る人の文章術』ジョセフ・シュガーマン/著、金森重樹/監訳
魅力的に読ませる文の書き方はもちろん、文章の構造やフォント、価格の見せ方に至るまでテーマを立てて解説。著者が手がけてきた実例とともに紹介する。PHP研究所/1,540円。

症状10:AIが仕事を奪う!なんて怖い。無視せず、かといってやみくもに恐れずにいたいです

あり得るシナリオを通して、思考実験しておこう

本書は、「AIが仕事を奪う」以上の事態を想定して書かれています。その事態とはいわゆる「AIコントロール問題」。つまり我々は人類よりも優秀なAI=スーパーインテリジェンスをコントロールできるか?という問題です。

そういったAIの誕生からその後のシナリオまで予測されています。約700ページもの大著ですが、思考実験にはもってこい。原著の発売はなんと2014年のことですが、ChatGPTが全世界で使われる今こそ注目されるべき一冊です。

『スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運』ニック・ボストロム/著、倉骨 彰/訳
『スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運』ニック・ボストロム/著、倉骨 彰/訳
著者はオックスフォード大学〈人類の未来研究所〉所長などを務める思想家。本書はイーロン・マスクの愛読書の一つとしても知られている。日本経済新聞出版/3,080円。