木工作家・内田悠の木目の表情を生かすウッドターニング

国内のみならず、海外からも注目を集める若手作家の台頭が目覚ましい。先達たちが築いてきた日用の器の美しさやアートとしての挑戦の先に、新世代の器作家たちは、いま何を考え、何に夢中になっているのか。目指すところも、制作の技法もそれぞれに異なる、1980年以降生まれの器作家のアトリエを訪ね、聞きました。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Masae Wako / edit: Tami Okano

高速回転する木工旋盤で、イタヤカエデの材を削り出す。削り屑がびゅんびゅん飛び散って、黒いTシャツがあっという間に木屑まみれ。4年先まで個展や納品が決まっているという内田 悠は、岐阜の高山で木工家具の技術を学んだ後、地元・北海道三笠市に戻ってきた人気木工作家だ。

住居も兼ねる工房は、周辺に15ヘクタールの農地が広がる土地の木造平屋棟。現在は、ウッドターニングと呼ばれるアメリカ発祥の手法で、木のリム皿やトレーを手がけている。

木工作家・内田悠の作品
染色した木目が美しいイタヤカエデのリム皿。ごく軽く、洗う時の手が気持ちいいのも魅力。

「回転する木の表面に、ガウジという刃物を当てて削ります。刃物を砥ぐのは日に4回。ちゃんと砥ぐと気持ちいいし仕事がはかどるんです」

木の器というとノミ跡を残したものも多いけれど、内田はするんときれいに削り上げる。その滑らかな木肌にもうっとりするが、わずか1mmほどに削り立てた極細の「縁」に、指の腹が引っかかる感覚が心地よい。

「古いものが好きですね。例えば北欧の古い木皿の、丸くふっくらしたリムと、シャープな縁のコントラスト。そういう美しさを自分なりに解釈し、表現できればと思っています」

「イタヤカエデは木目に個性があり、染めると表情が際立ちます」

道産の木を使い、木目の美しさを何より大事にする内田だが、その器は色合いも大きな魅力。例えば薄墨色のリム皿は、草木染めで使う鉄媒染液を用いて、鉄分と木のタンニンを反応させて染色する。染めて乾かす工程を3度繰り返した後、ガラス塗料をかけて仕上げるのだ。

ゆえに洗うと一瞬で水をはじき、木肌の上の丸い水滴はリネンで即座に拭き取れる。木の美しさを堪能でき、磁器やガラス皿のように扱いやすいリム皿やトレーは、すでに海外でも注目され始め、忙しさは増すばかり。

「だから、旋盤で仕上げる前の下準備など、ある程度の作業まではスタッフでもできるようにしています。仕事だけに追われるのでなく、表現するための手は少し空けておきたいんです。この仕事を始めたきっかけも、木という素材に惹かれ、木の魅力を伝えたいと感じたこと。木の器が持つ“広く伝える力”も面白いけれど、家具作りも続けたいし、アート制作にも興味があります」

木工作家・内田悠の工房
アメリカ製の木工旋盤が並ぶ工房。回転する木塊に刃物を当てながら削っていく。

2022年は工房と同じ建物内でショップ&カフェ〈緑月 Mitsuki〉もスタートした。店には内田の器や家具のほか、自身が選んだ作家の陶磁器やガラスも並ぶ。職人的に道を究めるのは向いていないかも、と笑う内田は、手元だけを見つめるのではなく、少し先の広い世界を眺めている。

「何を作るにしても、ずっと木と離れず、木と関わり続けるだろうなって。それだけは自信があるんです」