高速回転する木工旋盤で、イタヤカエデの材を削り出す。削り屑がびゅんびゅん飛び散って、黒いTシャツがあっという間に木屑まみれ。4年先まで個展や納品が決まっているという内田 悠は、岐阜の高山で木工家具の技術を学んだ後、地元・北海道三笠市に戻ってきた人気木工作家だ。
住居も兼ねる工房は、周辺に15ヘクタールの農地が広がる土地の木造平屋棟。現在は、ウッドターニングと呼ばれるアメリカ発祥の手法で、木のリム皿やトレーを手がけている。
「回転する木の表面に、ガウジという刃物を当てて削ります。刃物を砥ぐのは日に4回。ちゃんと砥ぐと気持ちいいし仕事がはかどるんです」
木の器というとノミ跡を残したものも多いけれど、内田はするんときれいに削り上げる。その滑らかな木肌にもうっとりするが、わずか1mmほどに削り立てた極細の「縁」に、指の腹が引っかかる感覚が心地よい。
「古いものが好きですね。例えば北欧の古い木皿の、丸くふっくらしたリムと、シャープな縁のコントラスト。そういう美しさを自分なりに解釈し、表現できればと思っています」
「イタヤカエデは木目に個性があり、染めると表情が際立ちます」
道産の木を使い、木目の美しさを何より大事にする内田だが、その器は色合いも大きな魅力。例えば薄墨色のリム皿は、草木染めで使う鉄媒染液を用いて、鉄分と木のタンニンを反応させて染色する。染めて乾かす工程を3度繰り返した後、ガラス塗料をかけて仕上げるのだ。
ゆえに洗うと一瞬で水をはじき、木肌の上の丸い水滴はリネンで即座に拭き取れる。木の美しさを堪能でき、磁器やガラス皿のように扱いやすいリム皿やトレーは、すでに海外でも注目され始め、忙しさは増すばかり。
「だから、旋盤で仕上げる前の下準備など、ある程度の作業まではスタッフでもできるようにしています。仕事だけに追われるのでなく、表現するための手は少し空けておきたいんです。この仕事を始めたきっかけも、木という素材に惹かれ、木の魅力を伝えたいと感じたこと。木の器が持つ“広く伝える力”も面白いけれど、家具作りも続けたいし、アート制作にも興味があります」
2022年は工房と同じ建物内でショップ&カフェ〈緑月 Mitsuki〉もスタートした。店には内田の器や家具のほか、自身が選んだ作家の陶磁器やガラスも並ぶ。職人的に道を究めるのは向いていないかも、と笑う内田は、手元だけを見つめるのではなく、少し先の広い世界を眺めている。
「何を作るにしても、ずっと木と離れず、木と関わり続けるだろうなって。それだけは自信があるんです」