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クラフトリカーの新しいカタチ。地球と人をやさしく彩る「WELLNESS GIN」は、焼酎の名酒蔵から生まれた

ここ数年のクラフトリカーブームも、いよいよ成熟してきたようだ。果たしてお酒で「地球と人のウェルネスに貢献する」とは、これいかに。あらたに発足した〈REUNION〉なるブランドが大真面目に世に送り出す1stプロジェクトは、鹿児島県南九州市で着々と進んでいた。これはローンチに至るまでの記録の一部である。

photo: Hiroki Isohata / text: Ado Ishino

ミッション・ビジョンからはじまる酒づくり

「実現したい未来を描き、概念を定義して共有する」とは、かの経営学者、ピーター・F ・ドラッカーが提唱した考えである。「WELLNESS  GIN」誕生は、まさにそんな考えに基づいた酒づくりの話である。

起業家、そして農業にも取り組む2名が「地球と人にやさしいウェルネス」を使命とする〈REUNION〉プロジェクトを立ち上げたのが2021年の8月。そして、未経験者が突如として酒づくりを始めた。しかも、コンセプトは「地球のためにお酒をつくる」という難解な話。

偶然が重なってその存在を知った取材班は、なにか縁のようなものを感じて、まだ完成前のプロジェクトと知りながら、鹿児島に飛ぶことにした。

酒蔵の湧水

酒は水、土、植物、微生物が健全であってはじめてできるもの。詰まるところ地球の健康を考えていけば人の健康にもつながっていく。このウェルネスの循環が地球と人の「REUNION」につながっていくと考えているという。

通底する「ウェルネス」を実現する具体的なアイデア、アクションとはいかなるものか。ただならぬ熱意は本物だった。そのアイデアと行動力は脱帽ものだった。ローンチまでの軌跡を追いかける。

その1. 地球を土から考える。「リジェネラティブ(環境再生型)農業」の選択

あまり聞きなれない「リジェネラティブ(環境再生型)農業」だが、持続可能性のその先、「環境の再生」にメリットがあるとして、欧米を中心に広く取り入れられているそうだ。農薬や化学肥料を使わない有機農業と共通点はありつつ、農地をただ健康的に保つのではなく、土壌の修復や生態系の保全、お酒の源となる水質の改善などを行いながら自然環境の回復を目指した農業のことを指す。

具体的には不耕起栽培や緑肥、有機肥料や堆肥の活用などを行うことで、植物や微生物が活発に働く土壌に戻り、空気中の炭素をより多く地中に留められるようになるという。その環境を作るのに数年はかかるという。

しかし、「WELLNESS GIN」の原料である「黄金千貫」は、焼酎に使われるサツマイモの代表格。焼酎大国の鹿児島では、大量栽培の必要に加えて取り扱い単価が安いため、有機栽培に挑戦する農家は皆無だったという。

絶望的な状況ではあったがチームは粘り強く生産者と交渉を続け、時間をかけた対話で理解を得て、さらに生産効率の悪い畑に対してしっかりと対価を支払うフェアトレードの条件提示で心強いパートナーを得た。

その2. 日本独自の循環システムへの気づき、「リユースボトル」の活用

カーボンニュートラルを目指すなかで〈REUNION〉チームは、「リユースボトルの日本独自の循環システム」にたどり着く。「回収されて殺菌洗浄し再使用されるびん」のことを「リターナブルびん」といい、それを独自のネットワークで回収、再販しているのが“びん商”の存在だった。実は日本には古くからあり、発祥は明治・大正までさかのぼるというから驚きだ。

WELLNESS GIN_リユースボトル_
リユースボトルなので、同じ銘柄でも違う瓶。それを「WELLNESS GIN」の個性としてプラスに変えるアイデアには脱帽だ。

リユースボトルは、再資源化されるたびにCO2を排出するリサイクル容器に比べ、圧倒的に排出量が少ない。さらにはゴミの回収ルートに乗らないのでゴミの削減にも効果を発揮。リサイクルなしのワンウェイボトルと比較すると80%もの温室効果ガス排出の削減が可能となる。

〈REUNION〉は「びん商連合会」へ直接コンタクトをとりさまざまな制約や条件をクリア、「WELLNESS GIN」のリユースボトル採用までこぎつけた。すばらしきチームの熱量である。

その3. カーボンフットプリントの計測と公開

カーボンニュートラルについても公約を掲げる。原料の調達、生産の現場から物流、さらにはオフィス照明にいたるまで環境対応された資材やエネルギーを活用し、CO2の排出量を極限まで低減させる計画だ。

すべてのカーボンフットプリント排出量を計測し、公開。どうしても削減しきれなかったCO2については、日本で行われる環境再生型農業によって土壌へ吸収されたCO2をもとにカーボンクレジットを購入。カーボンオフセットの仕組みを通じ、地球のウェルネスへの責任を果たすという。

その4. 人へのウェルネス、幻のキノコ「霊芝」を使用

人へのウェルネスは「フィジカル&メンタル」に効果が期待できる有効成分やスパイスを用いること。

1660年、オランダの医学博士が東アジアの熱病対策のための薬種として研究開発したのがジンのはじまりと言われており、「WELLNESS GIN」はそのルーツに敬意を込めて、国産の「霊芝」をキーボタニカルとして採用。

霊芝
古来、数々の薬効が伝承されてきた霊芝。

霊芝は、漢方として古くから珍重されてきた「幻のキノコ」で、中国では紀元前200年前から記述がみられる生薬のひとつ。カルシウム、リン、マグネシウム、カリウムなどのミネラル類を多く含み、その他約500種もの有効成分が含まれ、数多くの身体の機能に多面的かつ同時にアプローチしてくれる。

なかでも肝臓防護や抗癌作用、免疫向上の機能をもつ有効成分トリペノイドとβグルカンを抽出、酒に含有することに世界で初めて成功。プロダクトへの強いこだわりと突出した蒸留技術が実を結んだ。

その5. 薬膳スパイスがもたらすフィジカル&メンタルへのアプローチ

国際薬膳師の資格をもつ薬膳のエキスパートによる薬膳スパイスの開発。漢方の基本的な考え方である「陰陽五行」の観点をベースとし、GO OUT(食前)、CHILL OUT(食中)、NIGHTCAP(食後)の3つのシーンに合わせて自分でお酒に混ぜて使うスパイスを用意。飲むタイミングや合わせる食事などによってフィジカル、さらにメンタルにも効いてくるという。人のウェルネスを実現する「あなただけの一杯」を提案。

その6. “蒸留のパイオニア”佐多宗二商店との酒づくり

酒づくりのパートナーであり「WELLNESS GIN」の製造元となるのは「佐多宗二商店」。1908年創業、「晴耕雨読」や「不二才」などの芋焼酎で知られる鹿児島の老舗酒蔵であり、クラフトジンの製造も行う、日本における蒸留酒のパイオニア的存在だ。

芋焼酎づくりのプロセスにおいて、古より研究されてきた「麹」「酵母」原料の「芋」だけではなく、ヨーロッパから伝わった「蒸留」にスポットを当てたのが現当主、佐田宗公。「焼酎は蒸留するからなんでもいっしょだ」とさえ言われていた業界の通念を「焼酎は蒸留するから酒質の幅が広がる」にアップデートした。

「WELLNESS GIN」の蒸留に、均一のレシピは存在しない。ボタニカルの特性によって蒸留家がみずからの五感をフルに用いて香りや味を感じとり、温度や火力を調整していく。「蒸留は刀を打ち込む作業に似ている」と話してくださった蒸留家の言葉が、クラフトたる所以とも言える。

白いラベルが彩るこれから

WELLNESS GIN ボトル
ブランド名も商品名もプリントしていないお酒は、かなり珍しい。2023年に販売する全ての製品にリユースボトルを採用することはできないが、少しずつこの活動を広げ、リユースボトルの割合を高めていくよう取り組んでいく。

6つのアイデア・アクションを経て生まれたお酒「WELLNESS GIN」。最後の仕上げは「心のウェルネス」を示すホワイトラベルだ。商品名もブランドロゴもないボトルを、手に取る人それぞれが彩ってほしいと願う。地球を考え、人の健やかなる未来を願う〈REUNION〉からの手紙のようだ。  

キーボタニカルの霊芝特有のほのかな苦味と奥行きにスパイシーなキレ、そして度数を感じさせない丸みのある味わいは、食中酒としての新たな楽しみを生み出した。薬膳スパイスを効かせたジンと料理のペアリングは驚きの連続だった。ソーダアップにすれば、まったく飲み疲れることなく、日々の食事と一緒に楽しめるはずだ。

「WELLNESS GIN」がさまざまな場所で飲まれて、いくつものカラフルな夜が生まれ、利益が還元されるとき、掲げるウェルネスプロジェクトは本当の意味で結実する。そうなる未来は近い。 

REUNION「WELLNESS GIN」のボトル
「WELLNESS GIN」はリユースボトルにホワイトラベルなので、ボトルの表情もそれぞれ。ここに〈REUNION〉の思いが詰まっている。