中国の民衆が願いを込めた藍染布と、
ある日本人女性の知られざる物語
〈visvim〉が発行する、超大判のクラフトマガジン『Subsequence』の第5号がようやく完成し、2022年7月23日(土)に発売になります。相変わらずのゆっくりペースですが、たっぷり時間と手間ひまをかけて、世界のどこにもない大充実の雑誌を目指してマイペースに取り組んでいます。
今号のテーマは「Body Presence(身体性)」。パンデミック後、何だか“身体”が気になる今日このごろ。特集「身体を動かす、身体で感じる」では、元Appleのプロダクトデザイナー、ジョナサン・アイブやバンド「空間現代」の野口順哉、〈ポスタルコ〉のデザイナー、マイク・エーブルソン他6名にインタビューし、身体を使い、自分に向き合うことについてじっくり語っていただきました。
その5号発売を記念して、7月23日(土)から29日(金)まで、中目黒にオープンしたばかりの〈visvim〉の新ショップ〈VISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY〉でイベント「Subsequence SALON」を行います。本誌のディレクションにより厳選された古今東西のアート&クラフトを紹介するこのシリーズの第1回は、5号で特集した中国の藍染布「藍印花布(らんいんかふ)」を展示・販売します。
古くから中国の南方を中心に作られ、庶民の生活の中で使われてきたこの布は、日本の藍染で一般的に使われる「タデアイ」ではなく「リュウキュウアイ」を染料としています。「型染め」の技法を用いて深い青地に白く染め抜かれた、蝶や花などの自然や生き物、また中国の漢字や吉祥紋をモチーフにした素朴で美しい絵柄が特徴です。
戦後、一時は消えゆく存在となった藍印花布ですが、その伝統を中国で支え、また日本での普及に務めたのは、久保マサという一人の日本人女性でした。この久保マサが1970年代に東京・自由が丘で開いたお店が〈藍印花布 わたなべ〉。2年前に実店舗をクローズしてしまったこの工芸ギャラリーは、実は僕の自宅のすぐ近くにあって、数年前に散歩中たまたま足を運んだことから藍印花布の存在を知り、ご縁があって今回の特集記事を作ることになりました。
その藍印花布の保存に生涯を懸けた久保マサの知られざる長い物語を、編集者・文筆家の若菜晃子さんが取材・執筆してくださいました。驚くべき事実が満載の、12ページにわたる渾身の記事。ぜひ読んで、知っていただけたらと思います。
そして今回のイベントでは、久保マサの遺志を受け継ぎ藍印花布を扱う〈藍印花布 わたなべ〉の協力により、稀少なヴィンテージの藍印花布のコレクションを中心に展示・販売します。清代(20世紀初頭頃まで)の貴重なものから、比較的新しい70年代頃のものまでのヴィンテージの数々を中心に、藍染の鯉のぼりなども。日本ではほとんど見ることのできない貴重品ばかり。
本誌記事とともにその世界を体感し、楽しんでいただけたら幸いです。
『Subsequence』編集長 井出幸亮