戦争は、人々の生活の上に成り立っている。軍隊がやってきて、街が攻撃されるその陰で、人々の生きるための営みは続くのだ。食べること、眠ること、そして“創る”こと。ウクライナ国内には、日に日に状況が悪化する今でも、多くの芸術家やクリエイターが暮らしている。
同国中部の都市、チェルカスィを拠点とするアーティスト、バシャ・コルトシャもその一人だ。この危機的状況に際し、アートを通じたドネーションプロジェクト「Vasya Kolotusha Ukraine Donation Project」ローンチさせた生粋のウクレイニアン。軍事目的ではなく、人々の暮らしを助けるための人道支援を促す彼にとって、戦争は私たちが想像するよりずっと身近なものだった。
――侵攻からもうすぐ1カ月が経過しようとしていますが、現在のバシャさんの身の回りの状況はどのような感じですか?
僕が暮らすチェルカスィは落ち着いています。市民は経済を安定させるため、一生懸命働いています。みなが隣人の手助けとなるよう、自分にできることをやっているのです。
――現在バシャさんをはじめ、ウクライナ国内のアーティストたちはどのように暮らしていますか?国立歌劇場のプリンシパルが戦場に赴く様子がニュースになっていましたが、そのようなことは実際に数多く起こっているのでしょうか?
事実です。多くの有名なミュージシャンや俳優、作家達が、街の平和を保つために領土防衛隊(ウクライナ軍の予備役)に志願しています。
――イバンキフ歴史郷土史博物館(Ivankiv Historical and Local History Museum)での火災によりウクライナを代表する画家、マリア・プリマチェンコ(Maria Prymachenko)の作品が焼失するなど、貴重な文化財やアートも損害を受けていると伺っています。こういった戦災による文化的損失に関して、考えを聞かせてください。
僕が知る限りでは、火災により焼失したのは彼女の作品のうちの一部です。ボランティアの人たちが、たくさんの作品を博物館から運び出しましたから。ですが爆撃を受けているキエフやほかの街にある重要な作品の多くは、なくなってしまうと思います。
その一方でウクライナ国内では、たくさんの人が文化財や歴史的遺産を残すために尽力しています。例えばオデッサ(黒海に面した港湾都市)では、リシュリュー公爵(18〜19世紀の政治家。オデッサ州知事を務めたほか、多くの芸術家のパトロンでもあった)の銅像が、砲撃に備え砂袋で覆い隠されています。
――今回の軍事侵攻を経て、自国の文化や歴史を守ることに関するバシャさんの意識において、変化はありましたか? また祖国を守ることに関して、個人としての見解は?
(私たちをサポートしてくれる)全ての人、組織、そして国々に感謝しています。一国の歴史として、ウクライナのこれまでの歩みは困難を伴うものでした。その一方で、今回このような恐ろしいことが起きているにもかかわらず、国民が強い団結力や勇気をもって行動していることに感銘を受けています。もし自分の家族や街を守らなければならないことになれば、僕も動きます。
――この状況が落ち着いた後、自身のアートとして作りたいものや、創作で訴えかけたいことは何ですか?
戦争の怖さを表現したり、戦争反対を唱える作品を作る人がきっとたくさん現れるでしょう。ですが僕自身は、もっとポジティブな題材に専念したいと考えています。例えば自然の美しさなどです。アートを通して人々に安らぎを与えられるような作品を作りたいです。
――最後に、日本の読者に伝えたいメッセージをお願いします。
人類はこの戦争を乗り越えられるだろうと、僕は信じています。世界中の人々は、より自由で人間らしい尊厳を持ち、倫理観に満ちていて、過去の独裁的な時代とは決別しているからです。未来は自由な人々のためにあるのです。