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プロレス愛あふれるたこ焼き店に、スウェーデンの民族楽器教室。ディープすぎる“裏巣鴨”の名店4選

おばあちゃんの原宿で知られる巣鴨地蔵通り商店街が「表巣鴨」なら、知る人ぞ知る個性的な店が集うのが「裏巣鴨」。濃すぎるセレクトでお送りします。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Ryota Mukai

巣鴨のニューオープン4選」では、このエリアの新しい店を訪ね、「巣鴨地蔵通り商店街に新しい風を吹かす店3選」では、中心地・巣鴨地蔵通り商店街の新たな動きをピックアップした。

最後は、よりディープに、個性あふれる店主や店を求めて、巣鴨の「裏」を探っていく。

〈たこ焼き&焼きそば をごちゃん 裏巣鴨本店〉

裏巣鴨はここからはじまるとろとろのたこ焼きと巣鴨スタイルを受け継ぐ焼きそばの店

「巣鴨地蔵通り商店街が“おばあちゃんの原宿”なら、外れにあるこちらは“裏巣鴨”ですよ」とは、“裏巣鴨本店”と屋号に銘打つ〈をごちゃん〉店主の小郷潤さん。なるほど、裏原ならぬ裏巣鴨というわけだ。

ところは巣鴨駅すぐの飲み屋街。通りを奥まで進み、さらにその奥の細道にその店はある。出迎えてくれる店主の小郷さんは、この地に店を構えて約7年。この奥まった物件に魅力を感じてオープンしたという。

店主の小郷さんが出迎えてくれる。

「巣鴨は縁もゆかりもなかったけど、“おばあちゃんの原宿”だというのは知ってました。でも実際に住んでみたら全くそんなことはない。嘘ですよ」とパンチのあるコメント。店内もなかなか強烈で、プロレスラー、ハルク・ホーガンのポスターがあちらこちらに置かれている。アルティメット・ウォリアーが獲得したベルトのレプリカを持っているほどのプロレス好きでもあるのだ。

お店ではぜひたこ焼きと焼きそばを。大阪の〈あべのたこやき やまちゃん〉などで学んだたこ焼きは外はふんわり、うちはトロッとくるほど滑らかな口当たり。もちもちの焼きそばは〈山口や製麺所〉の中太麺を、テイクアウト用では〈新宿だるま製麺〉に特注の平打麺を、と麺のこだわりも深い。その上、茹で方時間は、かつてこの街にあったラーメン店として世界初のミシュラン一つ星を獲得店〈Japanese Soba Noodles蔦〉の店主・大西祐貴さん直伝。いわば巣鴨の味なのだ。

〈川窪万年筆店〉

この道40年。メーカーから修理を頼まれるほどの腕利き職人がいる万年筆店

「あの人の腕はすごいですよ」と、〈をごちゃん〉の小郷さんが語る万年筆職人が巣鴨にいる。かつて小郷さんがヴィンテージの万年筆の修理をメーカーに依頼したところできないと言われて紹介された、〈川窪万年筆店〉の店主・川窪克実さんである。

店舗兼工房で作業中の店主・川窪さん。装着したメガネでは15~20倍で見えるという。

川窪さんは3代目。機械工学科で学ぶ学生時代から手伝いをはじめ、約40年になるという。かねてよりものづくりは大好きで、店内にはプラモデルや3Dプリンタなども置いてある。ブラウン管テレビを改造してYouTubeを見られるようにしたり(画角も調整済み)、最近では生成AIで動画作りにも励んでいるという。「AIにどう指示したらいいか、ひと月くらい模索しましたよ。もう大変で。今じゃ30分くらいで動画を作れるようになりました」。といった具合に、ものづくりの話になれば止まらない。

本職の万年筆はというと、店売りに修理、オリジナル品も手掛けるほか、映画やドラマの小道具に昔の万年筆を貸し出すなどさまざまだ。近年では大河ドラマ『いだてん』の美術にも川窪さんの所有する万年筆が使われた。

「メーカー修理が難しいのは、部品の交換では済まないとき。例えば、金属部分は縮まないけどプラスチック部分は縮みますね。その結果、割れてしまう。それには長い時間がかかるから、割れた頃には同じ部品はなかなかないんですね。こうした修理はよく受けます」。作業棚には資料として数々の万年筆が保存されていて、なかには1800年代の代物も。長年の経験と知恵こそが成せる技がここにある。

〈レソノサウンド〉

巣鴨というよりスウェーデン。民族楽器ニッケルハルパを楽しめる音楽スタジオ

さらにディープな巣鴨の情報を調べていると、「ちょっと変わった北欧音楽スタジオ」を謳う施設〈レソノサウンド〉を発見。外観から謎に包まれた雰囲気だが、入ってみて驚いた。鍵盤付きギターといった風情の未知の楽器が飾られているのだ。

スウェーデン語でニッケルは鍵盤、ハルパは弦楽器のこと。

「ニッケルハルパというもので、スウェーデンの首都・ストックホルムから少し北へ行ったところにあるウップランド地方の民族楽器です。ダンスの伴奏楽器として使われてきました。有名どころでは、夏至祭などでも使われていますね。歴史は300年ほどでこの地方だけで細々と伝えられていましたが、1970年代以降のフォークリバイバルブームで初めてスウェーデン全土で注目を浴びるように。とはいえ、スウェーデン人みなが知る楽器でもないので驚くのも無理ないですよ」と店主の松岡眞吾さん。松岡さん自身、この楽器との出合いは10年ほど前。共鳴弦が響かせる豊かな残響音に魅せられ、ついにはスタジオをオープンしたのだ。

スタジオでは、ニッケルハルパはもちろんモンマルカ・ピーパという笛などのレッスン教室を開催するほか、練習スタジオとしても貸し出ししている。受講せずともふらりと立ち寄ってスウェーデンをはじめ北欧音楽のCDや雑貨を買うこともできる。巣鴨にいながら、スウェーデンの空気を存分に感じることができるスポットだ。

〈珈琲サイフオン株式會社〉

まもなく創業100周年。「コーヒーサイフォン」を生んだ老舗は巣鴨にあり

巣鴨のディープな魅力にも大分満足して帰路についたとき、今度は住宅街の一角に、「珈琲サイフオン株式會社」「コーヒー工場直売店」の文字を発見。思わず訪ねた〈珈琲サイフオン株式會社〉は、「創業1925年」とかなりの老舗で、聞けば「コーヒーサイフォン」の器具を発明した店だという。

店に隣接する工場で焙煎中の三代目の河野雅信さん。ゴルフ好きでもある。

ぜひ話を聞きたいと相談してみると、三代目の河野雅信さんが快くOKしてくれた。「私のおじいちゃん、つまり初代社長はお医者さんでした。お酒も煙草もやらず、赴任したシンガポールでコーヒーに出会ったが、現地の味は口に合わなかった。だから帰国してから仕事のかたわら、美味しいコーヒーを淹れられる器具を作るんです。その結果、誕生したのが『サイフォンの原理』を応用した『コーヒーサイフォン』。1925年のことで、世界で初めての商品化です」。当時の価格は初任給レベルでなかなか手に届くものではなかったが、戦後広く売れるようになり今に至るという。

上野でスタートしたのち、50年ほど前に現在の巣鴨に移転。サイフォンの器具はもちろん、隣の工場で焙煎するコーヒー豆や、オリジナルのドリップ用フィルターも販売している。「名門フィルター」シリーズは、内側のリブと呼ばれる凹凸の長さを調整。ゆっくりコーヒーが落ちるようリブが短くなっているから、素人でもおいしく淹れられるという。これぞ職人技。