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私の忘れたくない一行。玉置周啓、アカツカ、さとうもか、浮が選ぶ歌詞

歌詞は、最も身近な詩だ。歌謡曲からポップス、ヒップホップのリリックまで。メロディやサウンドと一緒に楽しむものだが、言葉そのものもリズムを持っている。敢えて言葉だけを切り取って、定型詩や散文詩と同じように豊かな表現を細部まで味わいたい。

初出:BRUTUS No.1008「一行だけで。」(2024年5月15日発売)

玉置周啓

忘れたくない一行

東京の空の星は見えないと聞かされていたけど 見えないこともないんだな

フジファブリック「茜色の夕日」(2005年)作詞・志村正彦

「東京」も「空」も音楽家が歌い古してきたモチーフだが、哀愁だけそのままにもともとあった濃い感傷を引き剥がしている。新視点や学びによって聴者を説得論破するような下品さもなく、そういえば最初からそうであったように思わせるところに強烈な引力がある。主体が聴者にある。それが言葉の持つ本当の力だと思う。

忘れたくない、自身の一行

カップヌードゥルドゥー 私たちの人生はお湯を入れたら最後 時間に追われる運命さ

MONO NO AWARE「マンマミーヤ!」より。

アカツカ

忘れたくない一行

あんたと仲良くしたいから 美術館に美術館に美術館に 火をつけるよ

P−MODEL「美術館で会った人だろ」(1979年)作詞・平沢進

本能を理性で舵取りしながら生きている我々の日常に差し込まれた、迷惑千万この上ないワンフレーズ。しかし不謹慎とは思いつつも、極めて動物的な底知れぬラブ故の清らかさを感じます。美しくないものこそが美しいと肯定してくれるような、静かでキモみ溢るる感情の爆発を感じる歌詞に、ある意味希望を与えてもらいました。

忘れたくない、自身の一行

アイドルだから ずっとそうだから 本当もうこの全てにすがって 生きてみたいだけ

South Penguin「idol」より。

さとうもか

忘れたくない一行

今も 思い出のわたしに 囚われて笑いながら 泣いている

DREAMS COME TRUE「今も」(2004年)作詞・吉田美和

辛いことがあって胸が張り裂けそうだった時、この曲を何度も聴いていました。10代の頃、大人って悲しい気持ちを乗り越えてここまで生きてきていてすごいな、なんてことを思い、私もそうなれるか不安でしたが、乗り越えなくてもずっと心に悲しみを持っていてもいいのかもと思えた瞬間が、この歌詞を知った時でした。

忘れたくない、自身の一行

未来は眩しすぎる だから明日は見えない 心配いらないね!

さとうもか「old young」より。

忘れたくない一行

ひとつになんかならなくてもいい 生まれる前から わたしたちずっとひとつのまま

GOFISH「わたしたちずっと」(2023年)作詞・テライショウタ

GOFISHのソロライブで初めてこの歌を聴いた時、はっきりと聞こえてきた詞です。優しさに辿り着くまでに乗り越えてきた色々なものが内包され、真実を帯びた言葉が光のように胸に差し込んできて涙が一粒溢れたこと、その涙の温度まで忘れられない瞬間の記憶となっています。音源化はされていませんが、YouTubeで演奏動画を見られますのでぜひ。

忘れたくない、自身の一行

会いたい さみしさは 時間をかけて 海へ帰す

浮「海へ」より。