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紀伊國屋書店、本屋ルヌガンガetc. 書店で聞いた、忘れたくない一行 〜短歌編〜

歌集・詩集・句集のラインナップを充実させる、書店員たちの大切な一行から、短歌をセレクト。


本記事も掲載されている、BRUTUS「一行だけで。」は、好評発売中です。

edit: Ryota Mukai

生きるための道具と詩歌「がたんごとん」

生きているだけで三万五千ポイント!!!!!!!!!笑うと倍!!!!!!!!!!

石井僚一/作
『死ぬほど好きだから死なねーよ』(短歌研究社)収録

煩雑な思考や事情をブッ飛ばし「生きろ!」と人間を全肯定し励ます。全身全霊、最高最強のむちゃくちゃな短歌!(吉田慎司)

曲線

星ひとつ見えない夜の味噌汁を作ろうとして蛤を買う

土井礼一郎/作
『義弟全史』(短歌研究社)収録

たしかに味噌汁は夜のようだ。暗闇と全ての明かりを呑み込む蛤(はまぐり)の白さが美しい。解体し暴かれゆく現実と謎めいた不条理なシーンが強く心を捉える。(菅原匠子)

ペンギン文庫

波打ち際の泡すくい上げ手のひらに小さな海の呼吸が終わる

近江瞬/作
『飛び散れ、水たち』(左右社)収録

瑞々しい言葉で季節を重ね、情景を思い描く。淡い陽炎(かげろう)や震災時に降った霙(みぞれ)が蘇る。この歌集を帰る場所の一冊として大切にしている。(山田絹代)

紀伊國屋書店新宿本店

びしょぬれの雀なりけりびしょぬれは全身的な花なりけり

渡辺松男/作
『自転車の籠の豚』(ながらみ書房)収録

「びしょぬれ」「雀」「全身」と、濁った音の連なりから、パッと音が放たれて「花」になる。音で意味をさらに深く体感させてくれる。(梅﨑実奈)

古書ソオダ水

秦佐和子いくたびか深きお辞儀して去りぬさんぐわつ雨ぬるむ頃

吉田隼人/作
『忘却のための試論』(書肆侃侃房)収録

「こうあるべき」と囚われてしまうその心を軽々と飛び越える存在と言葉がここまできれいに混じり合うこと、残してくれたことに。(樋口塊)

BREWBOOKS

抜かれても雲は車を追いかけない雲には雲のやり方がある

松村正直/作
『短歌タイムカプセル』(書肆侃侃房)収録

誰しもゆっくりと遠ざかっていく雲を車内から眺めたことがあると思いますが、雲の側に立つ意外性と前向きな印象にはっとさせられます。(尾崎大輔)

そぞろ書房

なるようになってしもうたようである穴がせまくて引き返せない

山崎方代/作
『現代短歌の鑑賞101』(新書館)収録

「しもうた」のなんとも言えないユーモアが好き。「この道しかないんだなあ」という諦念は生きる希望を与えてくれる。(屋良朝哉)

古本詩人ゆよん堂

さあここであなたは海になりなさい 鞄は持っていてあげるから

笹井宏之/作
『えーえんとくちから』(ちくま文庫)収録

胸に悲しみがいっぱいな時、「思い切り泣いてもいいよ」と優しく言ってくれるような短歌。何だか心が許され解放される感じがある。(山田正史)

葉ね文庫

能あるきりんは首を隠す んなわけねーだろ剝きだして生きていくんだ光の荒野

上篠翔/作
『エモーショナルきりん大全』(書肆侃侃房) 収録

ほんとかっこいい。声に出すと気持ちいい。何度読んでもぐわっと高揚する感覚に、ニヤついてしまうのです。(池上規公子)

本の栞

祈るとき人は必ず目を閉じて何もなかったように立ち去る

俵万智/作
『チョコレート革命』(河出書房新社)収録

本書収録のほの暗い短歌もお気に入りなのですが、光を感じられるものを。誰かに何か伝えようとして言葉を選ぶことも、祈りに少し似ている。(田邉栞)

書架 青と緑

思い知れ、お前は一人、一人なのだ、一人だ、一人、しかいないのだ

牛隆佑/作
『鳥の跡、洞の音』収録

孤独な自分を受け止め、一人になる。その時初めて、自分にできることをするための力がむくりと立ち上がる気がする。(日下踏子)

ホリデイ書店

つばらかに翡翠のひかり満ちわたるからまつ林朝鳥のこゑ

三國玲子/作
『昭和の短歌を読む』(岩波書店)収録

昭和末期に活躍した歌人、最晩年の作。死を目前にした清澄かつ静かな境地を感じます。時折読み返したくなる歌人の一人です。(宮本ひろみ)

本屋ルヌガンガ

起き抜けの素足をぬるい床にあて夜まで歩き続けたいのだ

山階基/作
『夜を着こなせたなら』(短歌研究社)収録

そっと世界に触れるような、柔らかくどこかけだるい朝の表情に力強い言葉が継ながれていてハッとする。平熱のまま進むのだ、という感じがいい。(中村勇亮)

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