カーペンターズにUFOを歌った曲があるというと意外な気がする人も多いかもしれない。その曲は「Calling Occupants Of Interplanetary Craft」というもので、訳すと「惑星間飛行船の乗組員たちに告ぐ」といったタイトルとなる。『パッセージ』という地味なアルバムに入っている。
曲は、もともとKlaatuというカナダのサイケバンドが発表したものだが、カーペンターズのバージョンが発売されたのは1977年だ。スピルバーグの『未知との遭遇』が公開された年で、同じくUFOをモチーフとしたParliamentの『P-Funk Earth Tour』というライブ盤が発売された年でもある。まさにUFOの当たり年。
76〜77年に全米で開催された『P-Funk Earth Tour』では、ジョージ・クリントン扮する「スターチャイルド」が、ファンクで人類を解放すべく宇宙船から舞い降りてくるシーンがコンサートのハイライトとなっているが、このシーンは、ネイション・オブ・イスラムの指導者イライジャ・ムハマンマドが『旧約聖書』を引きながら語った「救世主」の降臨シーンに酷似しており、ゆえにパーラメントのコンサートには、ネイション・オブ・イスラムの面々が殺到することになったという。
アメリカにおいてUFOというテーマは、「UFOの存在を政府(あるいは軍隊)が隠蔽している」といった具合に政治的陰謀と関連して語られることが多いが、よくよく考えてみるとUFOをことさら政府と結びつけたがるのはアメリカならではの物語だと言ってよさそうだ。
UFOと日本政府の陰謀だなんて話は、聞いたこともないし、聞いたとしてもさして面白いとも思わないだろう。社会不安と政治不信とUFOが絡み合って面白いのはどうしたってアメリカで、なんならそれは20世紀アメリカに欠くべからざる神話なのかもしれない。
『未知との遭遇』はユダヤ教的色彩がかなり濃厚に出た作品だった。P-FunkのUFOは、ゴスペルを下敷きにしつつイスラムにまでつながるブラックアメリカの無意識を視覚化した。そうしたなか、カレン・カーペンターが歌うUFOには、白人中産階級の、地球というものに対する漠然とした不安と、宇宙へのロマンが無邪気に映し出されているように聞こえる。
地球や社会環境への不安の高まりと、60年代のアポロ計画がもたらした楽観的なフロンティア精神に駆られてUFOの降臨を見物にやってくる『未知との遭遇』の登場人物のような、無邪気でお人よしなアメリカ人の心情がそこには見事に描かれている。
UFOというものに何らかのリアリティがあった時代があったことを、まさにこの曲は教えてくれるわけだが、そのことにいま、僕らがピンとこないのだとすれば、それは逆に僕らが、もはやUFOを必要としない時代を生きているということなのかもしれない。