Visit

遊廓家・渡辺豪が案内する、吉原の正解

ずっと住んでいる人、住み始めた人。今日ふらりときた人。いい街はどんな人にも優しく、活気に溢れている。吉原を愛する遊廓家・渡辺豪がナビゲート。

illustration: Shinji Abe / text&edit: Asuka Ochi

江戸遊廓から食文化まで、
花街の歴史を旅する

吉原巡りは、浅草から土手通りを北に進み、遊廓があった日本堤への目印である〈見返り柳〉から。柳の角を曲がり、S字の衣紋坂を下ると華やかな遊廓への入口、吉原大門が現れることから、当時の川柳にも詠まれたシンボリックな場所。遥か300〜400年前に思いを馳せることができます。

吉原MAP イメージイラスト

今は、300ほどあったとされる〈遊廓建築〉の中で、赤線と呼ばれた時代の建物は10軒程度しか残っていません。日本史の中でも一瞬の、たった12年間しか存在しなかった産業の歴史が、カフェー調といわれる洋風の仕立ての建築として現存していることに自体に価値があると思うんですよね。

吉原弁財天〉には、新吉原女子保健組合が奉納した碑がひっそりとあり、戦後の組合による娼婦たちの相互扶助、働く権利や法律の不整合を主張して広報活動をしていた歴史にも触れられます。
70年以上前から、先進的な活動をしていた女性たちの存在が忘れ去られてしまうのはもったいないなぁと。

現在の吉原の名物は日本最大のソープランド街で、東京ドームほどのエリアに147の風俗店がありますが、実際にはネオンギラギラの風俗街というより、静かな街なんです。

無店舗型の性風俗店が潮流になったりして、歓楽街の風景はますます遺産化していきますが、建物や店名などさまざまな角度から街並みを捉え直すと、ここにもまた一つの時代が象徴的に立ち表れてきます。

ほかにも、桜鍋の〈中江〉や天丼の〈土手の伊勢屋〉など大正時代の建物、かつて履物屋で今はたばこ屋の〈大黒屋〉に飾られた花魁の高下駄にも、時代の面影を感じることができます。

また吉原グルメとして紹介したいのは、スーツ姿のボーイさんなど、地元で働く人に愛される食堂〈能登屋〉。看板メニューは蕎麦ですが、味噌汁と一緒に供される、和食としてのカレーライスが好き。
もんじゃやお好み焼きが数百円で買える〈三島屋〉も、下町の日常を味わえるスポット。昼間から酒を飲みながら粉ものをつつけます。

山谷と呼ばれるエリアには〈丸千葉〉や〈大林酒場〉など面白い居酒屋もありますし、2018年にできた〈山谷酒場〉は若い女性たちで賑わっていて、街をはるばる訪れる人も増えました。歴史も食も楽しめる、東京の東好きにはたまらないエリアだと思います。