12本のうどん。一見、同じように見えるかもしれないが、それぞれの太さ、カタチ、コシ、そして味わい方はさまざま。その中で、現在最も市民権を得ている御当地うどんといえば、数度のブームの後、全国で定着した讃岐うどんだろう。
1990年代後半、香川でうどん店巡りをする「お遍路」的な旅が注目を集め、観光客が急増。
さらに2002年、香川県内を中心に展開していたうどんチェーン〈はなまるうどん〉が東京に進出、成功を収めたことが決定打に。と同時に、他エリアのうどんへの関心も高まり、稲庭、味噌煮込みなどの専門店が都内に登場。
ちなみに、讃岐うどんを筆頭に、武蔵野や富士吉田などは「手打ちうどん」。粉を練り、こねてコシを出し、生地を延ばして切る麺だ。そして、もう一つの代表的な製法が「手延べうどん」。これは、粉を練り上げてから生地を棒状にし、手でよりをかける「手綯い」とそれをさらに延ばす「延ばし」という工程を経て、細い麺にするやり方。12種類の中では、稲庭、氷見、五島が相当する。これは遣唐使により五島に伝わった後、北前船で日本海を北上したという説が有力。
さて、讃岐うどんブームが落ち着いた後、目覚ましい台頭を見せているのが「武蔵野うどん」。これには、ラーメン界の「つけ麺」人気が関係しているという説がある。というのも、武蔵野うどんは具の入ったつけ汁で麺を味わう。このスタイルがつけ麺と同じであること、また太めの麺も似ている点から、ラーメンファンの心もつかみ、認知度が高まったのだ。
では、次なる流れはというと、「創作うどん」と目されている。ラーメンのトレンドが「御当地」から「御当人」へとシフトしたように、うどんもまた、店主が独自性を競う時代が来るのかも。
同時に、形状が面白く、さまざまな調理法に合いそうな「きしめん」の人気が今後高まるのでは、と予想する専門家筋の声も。来るか⁉きしめんブーム。
稲庭うどん(秋田県)
【太さ】
12の麺の中で2番目に細い。
【カタチ】
細い割に厚みがある。
【コシ】
煮崩れ知らずのコシ。
もともとは雪深い冬の保存食として作られていた麺が、秋田藩の献上品に。明治時代には宮内庁御用達となった、由緒正しき麺。一般の市場に出回ることは少なかったという。時間をかけた「手練り」と、機械に頼らず細くする「手綯い」で、しなやかなコシが生まれる。
白石温麺(宮城県)
【太さ】
12の麺の中で最も細い。
【カタチ】
すっと真っすぐ。
【コシ】
比較的しなやか。
最大の特徴は、全長9㎝という短さ。これは病気の人が食べやすいように考えられた長さと言われる。また、そうめんと同じ製法ながら油を塗っていないのも、消化の良さを考慮してのこと。「温」の字は、食べ方でなく、その思いやりの心の温かさを指しているそう。
氷見のうどん(富山県)
【太さ】
手延べだけに細い。
【カタチ】
断面は少し平たい。
【コシ】
見かけによらず強いコシ。
稲庭うどん同様、竹の棒に掛け、生地の様子を見ながら人の手で延ばしていく製法「手綯い」により、もっちりとした粘りと、独特のコシのある、喉越しのいい麺に仕上がる。「氷見うどん」という名称は、正式には老舗〈海津屋〉により登録商標されている。
武蔵野うどん(埼玉県、東京都)
【太さ】
がっしりと太め。
【カタチ】
角張った麺線。
【コシ】
力強いコシがある。
武蔵野うどんは、23区西部から多摩エリア、埼玉県西部の、武蔵野台地圏のうどん。この地域は稲よりも小麦の生産量が多く、粉食文化が栄えてきた。そのため、うどんは冠婚葬祭などにも欠かせない。「地粉」を使い、また外側の茶色い部分を残して製粉するのも独特だ。
富士吉田うどん(山梨県)
【太さ】
「骨太」と表現したい太さ。
【カタチ】
角材のごとき四角い断面。
【コシ】
硬さはダントツ!
ズズッとすすって、喉でなめらかなコシを感じる、という麺類ならではの楽しみは、富士吉田うどんにはない。それとは対照的に、力強く噛み締めて、しっかりとした食感と口の中いっぱいに広がる粉の風味とをじっくり味わうのが、このうどんの醍醐味なのだ。
きしめん(愛知県)
【太さ】
厚みはないが幅は相当。
【カタチ】
平たく、薄い。
【コシ】
しなやか。
イタリアのパスタ、フェットチーネのような、平べったく幅広な形状が最大の特徴。厚みがないので、比較的ゆで時間が短い。この点が、昔から「せっかちで締まり屋」とされている尾張名古屋の人々の気質に合い、この地に定着した、と伝えられているとか。
味噌煮込みうどん(愛知県)
【太さ】
かなりの太麺。
【カタチ】
断面はほぼ長方形。
【コシ】
弾力性はないが硬い。
味噌煮込みうどん用の麺は、塩を入れず、粉と水だけで打つ。煮込んでもしっかりとした食感が残っているのはそのためだ。ほかの麺と比べて、時間が経っても伸びないのも特徴。また、打った生麺をゆでずにそのまま、八丁味噌を溶かしたダシ汁の中で煮る店が多い。
伊勢うどん(三重県)
【太さ】
12大うどん中、最大。
【カタチ】
エッジはなく、丸い。
【コシ】
皆無に等しい。
うどん好きの間でも、評価がまっぷたつに分かれるのがこの麺。水分をたっぷり含んだふわふわとした極太麺の食感はコシがほとんど感じられず、独特。噛まなくても大丈夫なほど柔らかいので「離乳食期の赤ちゃんからお年寄りまで食べられる」と言われることも。
大阪うどん(大阪府)
【太さ】
比較的太め。
【カタチ】
真っすぐで断面は丸い。
【コシ】
口あたりの優しい食感。
柔らかくもちもちとした大阪うどんは、ダシをよく吸う。大阪の食文化は「ダシと薄口醤油が要」と言われるが、なるほど、上品な印象の麺は、丁寧に引いたダシを味わうのに最適。ただ、大阪では近年讃岐うどん店の進出が著しく、コシあり系が好まれる傾向も。
讃岐うどん(香川県)
【太さ】
太めの麺が基本。
【カタチ】
角が立ちくっきりした麺線。
【コシ】
弾力と伸びが身上。
近年最も注目を浴びた御当地うどん。香川県のうどん生産量および、1人当たりの年間うどん消費量は日本一だ。しっかりとしたコシがあるためか「讃岐うどん=硬い」と言われることが多い。が、むしろズズッとすすったときの伸びこそ、讃岐うどんの魅力だ。
五島うどん(長崎県)
【太さ】
手延べならではの細さ。
【カタチ】
細く、断面は丸い。
【コシ】
細い中にもタフなコシが。
稲庭・氷見と並ぶ、手延べうどんの代表格。平安時代に遣唐使により製法が伝来したという説もある、歴史のある麺だ。手延べ麺を作る工程で欠かせない表面に塗る油は、五島の特産品であるツバキ油を使用している。生産量が少ないため、「幻の麺」と称されている。
釜あげうどん(宮崎県)
【太さ】
やや太め。
【カタチ】
断面は比較的丸い。
【コシ】
コシはあるが柔らかめ。
釜あげうどんは、讃岐うどん店でも見られる食べ方だが、発祥の地は宮崎という説が根強い。九州では柔らかい麺が好まれるため長い時間をかけてゆであげ、それを水で締めずにゆで湯ごと器に盛る。食べ終えたらつけつゆを、ゆで湯の中に入れて飲むのがお作法。