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海外文学と詩歌に特化した出版社による挑戦。福岡〈本のあるところ ajiro〉

もともと異業種で働いていたものの好きが高じて店を開いたり、心から本を愛してやまない書店員がジャンルに特化した選書で勝負する店を始めたり。ここ数年、個性溢れる町の本屋が増えてきた。なかなか見つけられない貴重な古書からリトルプレス、そして店主が偏愛してやまない良書まで。新たな世界の扉を開いてくれる本に出会う冒険へ出てみよう。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Keisuke Kagiwada

本のあるところ ajiro(天神/福岡)

福岡にある〈本のあるところ ajiro〉は、品揃えが驚くほどストイックだ。なにしろ大部分を占めるのは、海外文学と詩歌(短歌、詩、俳句)の2本柱なのだから。

それもそのはず、同店を運営しているのは、これらのジャンルを得意とする、福岡拠点の出版社〈書肆侃侃房〉。近年では、話題のフェミニスト批評本『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』や、芥川賞候補作を輩出した文学ムック『たべるのがおそい』を刊行したことでも知られる。

しかし、そうした自社商品より、ISBNコードすらない自主制作の詩歌本の方が目立つ位置に置かれているあたりからもこだわりを感じられる。

「もともと私が個人的に友人と書店を始めようと思って動いていたんですが、いろんな事情でそれが頓挫してしまって。“だったら、うちでやれば?”という話に社内でなったんです。本は取次を通さず、すべて出版社や作者と直取引にして、ほかの書店にはほとんど流通しない詩歌の本も積極的に置くようにしています」と語るのは、〈書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)〉の社員にして店長の藤枝大さん。

「始めてみてわかったのは、密度を濃くすることが書店にとって突破口になり得るんだということです。実際、こんな品揃えにもかかわらず、蓋を開けてみると予想以上にお客さんが来てくれたので。だから、今後はより独自性のある、エッジの立った店にしていければと思います」と意気込む藤枝さんであった。

福岡 本のあるところ ajiro 店内
数多い大学短歌会の機関誌は「ZINEとして面白い」と藤枝さん。