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名バイプレーヤー・安藤玉恵がエッセイ本を上梓。戌井昭人が読んで受け取った、“日常のやさしさ”とは

映画『PERFECT DAYS』をはじめ数多くの映像・舞台作品で印象的な役柄を演じてきた俳優の安藤玉恵さんが初のエッセイ本を上梓した。温かなまなざしで自身の幼少期から現在までを綴った本作に向けて、安藤さんが「憧れの面白い先輩」と語る、作家の戌井昭人さんから書評が届いた。

text: Akito Inui, BRUTUS

気持ちが明るくなってくる。でも、なんだかホロリときてしまう。明るいからこそ消灯もあって、死や別れがある。そこをカラッと乗り越える。実は、そう簡単ではないこともあるだろうが、あくまでカラッと、そしてやさしさがある。つまり人情ってやつだ。泣いても最後は、そよ風が吹く。そんな人々や出来事が詰まっている本書は、俳優、安藤玉恵さんのエッセイで、読めば、とても気分が良くなれる。

安藤さんとは随分前から面識があって、実家のとんかつ屋さんで宴会をしたこともあったし、近くで用事があったとき、絶品とんかつを食べたくなり、ひとりでランチを食べに行ったりもした。だから本書に登場する、お父さんやお母さんにも会ったことがあって、泣けてきた。また舞台となる尾久の商店街の情景を思い浮かべると、いろいろ思い出すことがある。場所は違えど、自分は、東京の商店街の八百屋の孫で、店の前の靴屋のおっさんが変な踊りをしたり手品を見せてくれて、とても面白かったとか、天麩羅屋のおやじが嫌な奴で爺さんがいつも喧嘩をしていたとか、商店街のあれやこれやを思い出した。

それにしても昨今、このように軽やかな本が少ない気がする。いや、単に軽いわけではなくて、そこには人情が詰まっている。また安藤さんの情景描写が秀逸だ。におい立ってくる感じがたまらない。読めば、皆さまも、人情商店に足を踏み入れ、あたたかい気分になれるはずだ。やはり人間は、やさしさでなりたっているのだと、やさしさの足りない昨今の世界事情を憎々しく思いながら、小さな商店街の発するやさしさに浸りました。