気持ちが明るくなってくる。でも、なんだかホロリときてしまう。明るいからこそ消灯もあって、死や別れがある。そこをカラッと乗り越える。実は、そう簡単ではないこともあるだろうが、あくまでカラッと、そしてやさしさがある。つまり人情ってやつだ。泣いても最後は、そよ風が吹く。そんな人々や出来事が詰まっている本書は、俳優、安藤玉恵さんのエッセイで、読めば、とても気分が良くなれる。
安藤さんとは随分前から面識があって、実家のとんかつ屋さんで宴会をしたこともあったし、近くで用事があったとき、絶品とんかつを食べたくなり、ひとりでランチを食べに行ったりもした。だから本書に登場する、お父さんやお母さんにも会ったことがあって、泣けてきた。また舞台となる尾久の商店街の情景を思い浮かべると、いろいろ思い出すことがある。場所は違えど、自分は、東京の商店街の八百屋の孫で、店の前の靴屋のおっさんが変な踊りをしたり手品を見せてくれて、とても面白かったとか、天麩羅屋のおやじが嫌な奴で爺さんがいつも喧嘩をしていたとか、商店街のあれやこれやを思い出した。
それにしても昨今、このように軽やかな本が少ない気がする。いや、単に軽いわけではなくて、そこには人情が詰まっている。また安藤さんの情景描写が秀逸だ。におい立ってくる感じがたまらない。読めば、皆さまも、人情商店に足を踏み入れ、あたたかい気分になれるはずだ。やはり人間は、やさしさでなりたっているのだと、やさしさの足りない昨今の世界事情を憎々しく思いながら、小さな商店街の発するやさしさに浸りました。