とんかつでじっくり飲む。専門店では結構ハードルが高い。こと、とんかつ専門店は瓶ビール1種、酒は菊正宗のみなんていう潔い店が多い。営業時間も22時過ぎまでやっている店を探す方が難しい。
長っ尻は野暮なのか。否、日本酒よし、泡よし、ワインよし。バーフードの定番カツサンドは、シングルモルトにもしっかり寄り添える。和洋問わず万能に酒と向き合えるとんかつは、酒の肴としても実に優秀なのだ。いつもは定食でも、たまには肉料理として、酒を片手に。探してみると、そんなとんかつを提案する店がしっかりとある。
とんかつ専門店から、銘酒亭、洋食屋に大衆酒場まで、酒と楽しむとんかつは、バリエーション豊富、実に奥が深かった!
洋食・ワイン フリッツ(春日)
ワインと合わせてなお旨い。あのフリッツの感動が再び!
かつて洋食の名店〈旬香亭〉の揚げ物専門店として人気を集めた赤坂の〈フリッツ〉。その閉店から4年を経て、2016年5月に元調理スタッフだった田苗見賢太さんによって、店名もそのままにオープン。当然、メニューに並ぶのは、〈フリッツ〉仕込みの料理だ。
昔からのファンをさらに喜ばせたのが、「オープン直後はオペレーションが未熟だったから」との理由で封印していた「ロースとんかつ」の開始。茨城県産美明豚を、高温の油と、余熱でじっくり火入れ。香ばしいゴマ油の香り、歯切れの良い衣を噛み締めると、肉の旨味が広がった後に、脂は上品な甘味を残して消えていく。
「このスパークリングは、酸とミネラル感がとんかつと好相性。肉の旨さはもちろん、パン粉の香りと脂の甘さに結びつくんです」と田苗見さん。とんかつと豊富に揃うヴァンナチュールや日本ワインは、早くも地元客の胃袋を鷲掴(わしづか)みにしている。
とんかつ 喝(金町)
クラフトビールで攻略する隠れた名店のとんかつ
金町駅北口の駅前通りの雑居ビルの2階にある隠れ家的な店だが、〈喝〉はとんかつファンの間では名の知れた一軒だ。ここのとんかつの特徴は、何といっても低温の大豆油などで揚げ、余熱でじっくり火を入れることにより引き出される肉のジューシーさにある。
この製法は時間が経っても肉が硬くなりづらいというメリットを生むため、酒の肴としてじっくり味わうにはぴったりなのである。合わせる酒は、店主が惚れ込む常陸野ネストビール。赤米エールは、米由来の旨味とコクのある風味がしっかりととんかつに寄り添ってくれる。
GINZA1954(銀座)
肉汁滲む、薄紅色の気品あふれるカツサンド
惚れ惚れするほど美しい極薄の衣に、肉の断面は見事なまでの淡い紅色。名物の「カツサンド」にありつくには注文から30分ほどかかるが、低温の米油でじっくりと火を入れるその時間こそ、美しく旨いカツを生む秘訣。
贅沢にもロースの中心部だけを使う宮城県産三元豚は軟らかく、噛み締めると肉汁がじわり。合わせるのは豚と同郷の「宮城峡」。「ロース肉自体の旨味がしっかりしていて、ソースの味も濃いから、ストレートで合わせても負けない。さっぱりとソーダ割りでもいいですね」と店長の菅野清貴さん。さすがの粋な提案だ。
立呑み とんかつ まるや(汐留)
口に広がるラードのコクと強炭酸の刺激の調和
ロースカツ400円。惣菜店や弁当屋と変わらぬこの価格に気を取られていると、その旨さに驚かされる。豚肉は日本人向けに開発された麦富士豚。油はコクと風味を生む100%ラード。中心がほんのりピンク色になる絶妙な揚げ加減も見事。これは紛うことなき、専門店のとんかつである。
ここでお供に薦めたいのが、定番からジンジャー、梅風味まで10種ほど揃うハイボール。喉に刺さる強炭酸とウイスキーの苦味はとんかつの風味を生かしつつ、口中の脂だけを流す。後に残るのは心地よい爽快感と、幸せなラードの香りの余韻だけだ。
民藝酒房 SUZUBAR(新宿)
ゴールデン街の一角で幻のカツサンドに出会う
新宿で創業六十余年の老舗〈すずや〉。2015年前にメニューを一新し、品書きから「カツサンド」の名が消え、悲しんだファンも多いはずだ。が、そのカツサンドは、系列店のここ〈SUZUBAR〉で味わえる。当然、カツサンドの製法も〈すずや〉時代のままだ。
特製ソース、パンに塗られた辛子の刺激とバターの風味がヒレカツを包み、それらが渾然一体となる。中島大渡店長が季節の野菜や果物で提案するカクテルの中から「夏ならではです」と薦めてくれたのが「ミョウガのジンリッキー」。カツサンドに薬味的な刺激をプラスしてくれる。