NYを拠点に活動する日本人によるバンド「J-Squad」のメンバーでもあり、自身のプロジェクトでは、あらゆる音楽ジャンルのミュージシャンとも活動をするサックス奏者の馬場智章さん。
現在公開中のアニメーション映画『BLUE GIANT』では、この映画の要でもある、主人公・宮本大のサックスに、馬場さんが音を吹き込んだ。
これからの日本の音楽界を引っ張っていってくれるサックス奏者・馬場智章さんにとって、次世代に残していきたい、ジャズの入口となりうる“スタンダード・ナンバー”とは?
新しいジャズの形に開眼した「Jazz Crimes」
小学生の頃からジャズに親しんでいたという馬場さん。ジャズのカッコよさを教えてくれたジョシュア・レッドマンの「Jazz Crimes」。この曲はいかにして、馬場さんをジャズへと導いていったのか。
「ジャズの特徴の一つでもあると思うんですけど。時代によって、いろんなジャズの形がありますよね。例えば、ゴスペルから、スイング、ビバップ、クールジャズ、そして、フリージャズが生まれて……とか。
もともと、ビッグバンドをやっていたのですが、個人的にはコンボのような小編成のバンドが好きでよく聴いていました。僕が10代後半の頃は、サックスだとジョシュア・レッドマン、クリス・ポッターあたりがすごく注目を浴びていましたね。
当時は、僕もジャズっていわれると、チャーリー・パーカーや、ジョン・コルトレーンみたいなイメージがあって。海外はともかく、日本でいうジャズのイメージって、そういうのが強いんじゃないかと思うんですよね。ウイスキーやブランデーを飲みながら大人な感じで聴く音楽というか。
その中で、新しいジャズを教えてくれたのが、ジョシュア・レッドマンの『Jazz Crimes』です。サックス、オルガン、ドラムっていうトリオで演奏していて、もう純粋にカッコいいなと、こんなジャズがあるんだと気づかせてくれた一曲です」
テナーサックスへと導かれた『Some Skunk Funk』
馬場さんは、もともとアルトサックスから始めたという。しかしながらそんな彼を現在のテナーサックスに導く、ある一曲との出会いがあった。
「小学生の頃からアルトを始めたものの、体格も追いつかない。その後、テナーに切り替えたのですが、やはりテナーで行こうって思ったきっかけは、マイケル・ブレッカーです。なかでも『Some Skunk Funk』という曲が、すごく印象深かった。もともとフュージョンが好きだったので、この曲は大好きですね。たしか、中学校1年生か2年生のときに演奏しました。それこそ、そのとき、『BLUE GIANT』で一緒にやった石若駿も一緒でしたね。
札幌のビッグバンドに所属していたときに、少人数のメンバーでやるタイミングがあって、そのときの曲が『Some Skunk Funk』だった。すごくカッコいいけど難しいな、みたいに思いつつ、演奏した印象があります。
『Jazz Crimes』と『Some Skunk Funk』。この2曲が間違いなく、僕の青春時代のジャズの入口になりましたね。」
次世代に残していきたいニュースタンダードとしての「Rising Son」
馬場さんにとってミュージシャンとしての刺激をもっとも与えてくれたのは、現在ともに「J-Squad」で活動する、黒田卓也さんだった。
「実際、自分が演奏して、すごく感慨深かったのは、黒田卓也さんの『Rising Son』ですね。彼がすごく身近な人なので、ちょっと言うのは恥ずかしいんですけど(笑)。
日本人で、海外で認められてプレーしている人って、限られています。なかでも彼は、まず海外で認められて、日本に入ってきた。そういうホーンプレーヤー、管楽器奏者って、多分、彼が初めてじゃないかなって思います。
海外でリーダーとして活動して、認められるホーンプレーヤーが出てきたっていうのは、すごく刺激になりましたね。もっと自分もそういうところで戦っていきたいって思うきっかけになりました。その頃に出たアルバムのタイトル曲が『Rising Son』。僕が20歳ぐらいですね。ちょうどボストンのバークリー音楽院に行っていた時期です。
アメリカでトッププレーヤーを見るようになって、ものすごく層が厚いなと思ったりもしていた時期でした。その中で出てきた、黒田卓也という存在は、すごく衝撃的でしたね。
そのときはまだ面識はなかったのですが、そのすぐ後に出会うきっかけがあった。シンガーのJUJUさんのバンドメンバーとして共演したんです。それからたまに会う機会があって、黒田バンドの一員として『Rising Son』を吹いたときは、自分がステージでこの曲吹いているんだ、と感慨深かったですね。
特にインスト曲は、最近すごく複雑な構造のものが増えてきています。そのなかで、あれだけキャッチーなメロディーで、なおかつ、カッコいいっていうのはすごいなって。新しいなかにも古いというか、昔のジャズのリスペクトみたいなものをすごく感じる曲ですよね。
なので、『Rising Son』も、そういう意味では伝えていきたいです。入口としてもすごく聴きやすい。若い人とかにとっても入りになりうる曲ですよね。これがジャズなんだっていう感覚を広げてくれると思います」