Drink

スタイルにとらわれない、魔術師が棲むバー。小岩〈Cocktail Bar Raven〉

次の東京のバーシーンを担うのはどんな店?ちょっと意外なエリア「小岩」から発信する注目の新世代に迫る。

photo: Kenya Abe / text: Chisa Nishinoiri

POINT

1.とにかく自由な発想のカクテルが目白押し。
2.現行からオールドまで稀少ボトル多め。
3.ワークショップやイベントも多数。

相手の求めているものを、カクテルで表現する

自他ともに酒オタクと認める伊藤広光さんが営むのは、小岩の〈カクテルバー・レイヴン〉。「とにかく人をもてなすのが大好き。お酒をもっと自由に楽しんでもらいたい」と話す伊藤さんは、店で酒のワークショップや勉強会、アマチュア限定のカクテルコンペなどを開催し、カクテルを媒介にした参加型コンテンツを次々に打ち出している。

カクテルバー・レイヴンのオーナー・伊藤広光さん
1997年生まれの伊藤さん。伊豆・下田に蒸留所を設立し、リキュール造りも進行中。

バーという閉ざされた空間に新風を吹かせまくっている伊藤さんのモットーは、「まずはお客様がバーに何を求めて来ているのかを知る」こと。

「少ないやりとりで相手の求めているものを感じ取り、カクテルで表現するのが僕のスタイルです。例えば定番のカクテルでも、求めるのはおいしさか、一味違う新しさか。アブサンは苦手なんて言われると、むしろ出したくなりますね。実はこんなにおいしいんだ!って興味を持ってもらえることが嬉しいんです」

下の写真は、メニューの中のほんの一部。ボリビア産のマスカット・オブ・アレキサンドリアで造られるシンガニを使ったジントニックの新提案。カンパリ、ベルモット、ゴードンジンのオールドボトルで作る贅沢なネグローニ。

前割りした「ラフロイグ」を燗で出すという斬新なスタイルも。研ぎ澄まされたセンスで香りや味覚成分の相性を調合し、お客との対話に耳を傾けることで完成する伊藤さんのカクテル。そして一杯のグラスには、込めた物語とともに使われている酒の生産背景や歴史もさりげなく添えてくれる。いっそう“次”を感じさせる店だ。