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選び方の基準は“風景”。建築家・谷尻誠が東京でホテルに泊まるなら

次々とオープンする東京の新しいホテル。様々な特徴やサービスの中で何を基準に選べばいいのか。建築家が明かす、新たな評価軸。

photo: Atsushi Kondo / text: Fumio Ogawa

「建築を手がける時、建物は造れても風景は作れない、と肝に銘じています。建物に入った人が感動するのは、実は、風景なんです。東京でホテルを選ぶとしたら、そこの場所をどう見せてくれるかが、僕の評価基準です」と語るのは、建築家の谷尻誠さん。

例に挙げたのは大手町の〈アマン東京〉。地上33階に位置し、約30mの天井高を持つロビーと、広大なガラス窓から見える風景が圧倒的だ。ガラス窓からは、外苑の森と新宿副都心の高層ビル群が一望できる。ここのスイミングプールも好きな場所。

高さ約8mに及ぶ2面の窓の一方からは、外苑の森の緑と高層ビル群、その向こうに広がる富士山を含む山々と、もう一方の窓から東京湾方面を見晴らせる。客室も同様。すべての客室が71m2以上のゆとりある空間で、ベッドルームは、ゲストが目を覚ました時、家具が視界をさえぎらず、外の景色が見える設計だ。

「左脳で良さを考える必要なく、ひたすら右脳的な感動です。僕が建物の室内を暗めに設計するのも、風景の美しさが際立つから」

八重洲の〈ブルガリ ホテル 東京〉や、麻布台の〈ジャヌ東京〉も同様の魅力がある。ホテルからの景色だけでなく、街への溶け込み方も重要な風景だ。日本橋兜町(かぶとちょう)の〈K5〉は古い銀行建築を再生させた空間が街の記憶を継承し、代々木公園の〈TRUNK (HOTEL)YOYOGI PARK〉は緑に囲まれた立地を最大限に生かしている。視点を変えるだけで、思いがけない“風景”が目の前に広がる。

アマン東京(大手町)

自然と一体化したようなところが〈アマン〉の魅力と思われてきたが、〈アマン東京〉では、都市を含めた世界全体もある種の自然なのだと、インスピレーションを与えてくれる。

ブルガリ ホテル 東京(八重洲)

2023年4月、ブルガリ ホテルズ & リゾーツによる日本初のホテルとして開業。デザイン、空間、サービスで群を抜き2年連続してミシュランの“星”獲得中のレストランも。

ジャヌ東京(麻布台)

2024年、〈ジャヌ〉ブランド世界初のホテルとして誕生。ベルギー人デザイナー、J-M・ギャシーによる客室のデザインは、日本とヨーロッパの伝統的要素をクロスオーバーさせたもの。

麻布台〈ジャヌ東京〉内観
姉妹ブランド〈アマン〉の静謐(せいひつ)さとは異なる、エネルギッシュで躍動的な雰囲気も魅力。

K5(茅場町)

渋沢栄一の手で日本最古の銀行が設立されて以来、金融の中心地だった兜町。1923年竣工の銀行別館の建物をスウェーデンの建築ユニットがリノベ。天井高の高い客室「K5 SUITE」などほかにない魅力も。

茅場町〈K5〉内観
質の良いベッドに身を横たえていれば、自然、東京の歴史に思いが行くだろう。

TRUNK (HOTEL) YOYOGI PARK(代々木公園)

代々木公園に隣接し、都会の喧騒と自然の調和を体現する。日本の伝統技法を用いた洗い出し仕上げの外壁に、北欧モダンを融合した内装が特徴的。

代々木公園〈TRUNK (HOTEL) YOYOGI PARK〉外観
最上階には宿泊者専用の温水インフィニティプールとジャクージを備え、四季折々の景色を眺めながら豊かなひとときを過ごせる。