卸問屋や商店が並ぶ東京・浅草橋の一角に、真っ白な5階建てビルが現れた。1階の、町に開けた劇場のような空間も気になるが、なにしろ目を奪われるのが2階である。緑の植物が窓から盛大にハミ出していて、もしやサッシもガラスもない吹きさらし?
「その通り、半屋外ガーデンです。僕らが食事や休憩に使う場所ですが、風も雨も平気で吹き込んでくる。でも、内外の境界がゆるい縁側的空間って本当にリラックスできるんです」と言う建築家の畝森泰行と金野千恵。
ここは、それぞれに設計事務所を主宰する2人が共同で借り上げてリノベーションしたオフィスビルなのだ。各階をどう使うかのプランは、双方の事務所全員参加のコンペで決めたそうで、3階が金野、4階が畝森のオフィス、ほかの階は共用となった。
1階は打ち合わせやイベントに使うフリースペースで、5階は本やカタログが並ぶライブラリー。階段室は建材サンプル置き場としても使われ、トイレはオフィス階ではなく、あえて共用階に設けている。
「自分が働くフロアだけですべてが完結する……のではないプランにしたんです。休憩や食事や資料探しのたびに上下階を移動することで、ほかの部屋の様子を垣間見たり誰かと会話したりできる。そういった、いわば“効率性をゆるめる”ことも、これからのオフィスには大切だから」と話す畝森は、このビルが町にもたらす変化についても考察する。
「例えば1階は、一日カフェや展覧会など多目的に使われています。町には、“ものを売る場所”“学ぶ場所”“住む場所”など目的がはっきりした場所が並んでいますが、そこへ多目的、つまり目的がゆるい場所が投げ込まれると、“今度は何をやるのかな”“私も参加できるかも”とワクワクする人が増える気がするんです。
ちなみに、1階の次回イベントは、写真家でもある隣の洋食店のご主人が昭和初期から撮り続けている風景の写真展。町の人との距離が縮まったようでうれしいですね」