違う価値観を否定せず、面白がったその先に
世界で活躍する渡辺謙さんは、自らを「ハリウッド俳優とは全く思っていない」と言う。「日本で生まれ育ち、日本文化や慣習が染みついている。アメリカナイズされていない僕だから表現できることはあると思う」。日米共同制作のドラマ『TOKYO VICE Season2』に出演。
文化の違う人と働くコツは、違いを楽しむこと。「自分と異なる意見を否定してしまったら、それでおしまい。ハーモナイズするだけでなく、ぶつかったり“そんなふうに思うんだ”と面白がることに価値があるんじゃないかな」
結果的に懸け橋になれれば
90年代の東京を舞台に、アメリカ人の新聞記者、警察、ヤクザたちの人間模様が複雑に絡み合う日米共同制作のドラマ『TOKYO VICE』は没入感がハンパない。世界中で話題を呼び、4月より日本でシーズン2の放送、配信がスタートする。渡辺謙さんは、ヤクザの闇社会を熟知する刑事・片桐を演じている。
「舞台は99〜00年。経済に陰りが生じ、社会構造が変化し格差や分断などの歪みが芽生え始める起点となった時代です。日本だけでなく、ユニバーサルなテーマを描いていると思いますね」
東京は世界でもロケの難しい町として有名だが、シーズン1の成功により、2では都庁前での銃撃戦の撮影許可が下りた。ハリウッドスタッフは、東京がもっと映画製作に開かれた町になることを望んでいるらしい。
「アメリカは映画の文化的な価値を積み上げてきた歴史がありますが、日本はまだそこまでは。これはもう一歩ずつ切り拓(ひら)いていくしかないですよね」
ハリウッド映画やブロードウェイの舞台出演など、渡辺さんは挑戦し続けてきた。その仕事の選び方は、個人の成功のためだけではないように感じる。
「社会や後人のためになったらいいな、日本と海外との合作が増えたり、双方の出演者やスタッフが行き来できる懸け橋になれればいいなとは思っていますが、それが一番の目的ではないかな。やっぱり目の前の作品をどうやって成立させるか、それに注力しています。それを続けることが最善なのかなと」
挑戦をし続けられる理由を問うと、「行き当たりばったりなのよ、本当に」と笑った。
「50歳を過ぎたあたりから、自分から何かを仕掛けるよりも、“面白いからこれをやれ”と人に言われたものに乗った方が、自分の想像以上の世界が広がると気づいたんです。撮影初日の前夜はいまだに眠れません。スタッフや共演者と手を取り合って、崖から飛び降りるような気持ちで毎回臨んでいます(笑)」