戦後の雰囲気色濃い、80年代の東京の景色
ライル・ヒロシ・サクソン
そもそもどうして当時、東京の写真を撮っていたんですか?
善本喜一郎
1984年、24歳の頃、東京写真専門学校を卒業した後に有志で〈ギャラリー櫻組〉を立ち上げました。ここに展示するために撮影していたんです。テーマは「東京の風景」。当時アメリカでよく撮られていた、街を俯瞰した写真が面白いなと思って。
ライル
私も1984年で24歳でした!しかも来日したのもこの年。当時はカメラを持っていなかったので、この時代の東京が見られてうれしいです。
善本
写真集を出したきっかけは、コロナ禍で自宅にいる時間が増え、過去のフィルムを整理していたら、これらの写真を見つけたことでした。ネットで公開するにも、そのまま見せるのは芸がないし、今の東京を同じ角度で撮って並べてみようと。そうして2枚の写真をインスタグラムにアップしたら、すごく反響があったんです。外国人のフォロワーが多いのも新鮮でした。
ライル
私は主に1991年前後に撮った動画をYouTubeにアップしていますが、日本人のコメントが多いです。反対なのは面白いですね。
80年代の新宿と上野
善本
90年代の時点で、東京中を歩き回って映像を撮っていたのはすごい。いわば元祖YouTuberですよ。僕も体力があったから、当時は東京中をあちこち歩き回っていました。なかでも印象に残っているのは新宿駅東南口界隈。まだまだ闇市の雰囲気が充満していたし、公衆トイレから流れ出る悪臭も強烈で。
ライル
新宿駅東南口「長野屋」前の写真を比べると、大きな変化が見て取れますね。
善本
ここには昭和天皇即位を記念した碑が立っていたんです。写真でいうと、左端の車の奥。現在のように整備されたのは昭和が終わったあと、1994年でした。
ライル
腕を組んで露店を覗くおじさんにたばこをくわえて歩くサラリーマンと、当時の生活も垣間見えて面白い一枚です。
善本
あたりには怖い人も多くて、ドキドキしたことも覚えています。その意味では、上野駅周辺もかなりピリつく空間でした。
ライル
「上野駅・松竹」に写っているのは、現在の〈上野の森さくらテラス〉ですね。駅を上野公園側に出てすぐの場所だし映画の宣伝看板が華やかで、怪しさとは無縁そう。
善本
左中央に写る黒い影はマーケットの入口なのですが、なにがあるかわからない、独特の雰囲気が漂っていました。少し離れた場所にも戦後の雰囲気が色濃く残っていて、これまた近づき難い。カメラを向けることすらできませんでした。
ライル
90年代にもそんな場所は残ってましたが、今やどこも綺麗になりましたね。
善本
改めて撮影して気がついたのは、歩道が広くなったこと。渋谷のセンター街や自由が丘の駅前など、歩行者にとって安全な空間になりつつある。
ライル
東京の街並みは常に変化しているから、いつ出歩いても旅行気分が味わえて楽しい。
善本
いくら撮影しても飽きることがない街ですね。