Talk

Talk

語る

写真家・善本喜一郎とライル・ヒロシ・サクソンが対談。『東京DEEPタイムスリップ1984⇔2022』を片手に東京の景色を語り合う

写真家の善本喜一郎さんが今年3月に刊行した写真集『東京DEEPタイムスリップ1984⇔2022』は、その作りが面白い。左ページには善本さんが撮影した1980年代の東京の風景、右ページには同じ位置から同じ角度で撮影した2020年以降の写真が並んでいるのだ。2つの写真を見比べれば、東京の変わったこと、変わらないことが見えてくる。善本さんと、同じく過去の東京の映像を大量にYouTubeに投稿するライル・ヒロシ・サクソンさんが、2つの時代の東京について、本書を片手にトーク。

text: Ryota Mukai

戦後の雰囲気色濃い、80年代の東京の景色

ライル・ヒロシ・サクソン

そもそもどうして当時、東京の写真を撮っていたんですか?

善本喜一郎

1984年、24歳の頃、東京写真専門学校を卒業した後に有志で〈ギャラリー櫻組〉を立ち上げました。ここに展示するために撮影していたんです。テーマは「東京の風景」。当時アメリカでよく撮られていた、街を俯瞰した写真が面白いなと思って。

ライル

私も1984年で24歳でした!しかも来日したのもこの年。当時はカメラを持っていなかったので、この時代の東京が見られてうれしいです。

善本

写真集を出したきっかけは、コロナ禍で自宅にいる時間が増え、過去のフィルムを整理していたら、これらの写真を見つけたことでした。ネットで公開するにも、そのまま見せるのは芸がないし、今の東京を同じ角度で撮って並べてみようと。そうして2枚の写真をインスタグラムにアップしたら、すごく反響があったんです。外国人のフォロワーが多いのも新鮮でした。

ライル

私は主に1991年前後に撮った動画をYouTubeにアップしていますが、日本人のコメントが多いです。反対なのは面白いですね。

80年代の新宿と上野

善本

90年代の時点で、東京中を歩き回って映像を撮っていたのはすごい。いわば元祖YouTuberですよ。僕も体力があったから、当時は東京中をあちこち歩き回っていました。なかでも印象に残っているのは新宿駅東南口界隈。まだまだ闇市の雰囲気が充満していたし、公衆トイレから流れ出る悪臭も強烈で。

ライル

新宿駅東南口「長野屋」前の写真を比べると、大きな変化が見て取れますね。

善本

ここには昭和天皇即位を記念した碑が立っていたんです。写真でいうと、左端の車の奥。現在のように整備されたのは昭和が終わったあと、1994年でした。

ライル

腕を組んで露店を覗くおじさんにたばこをくわえて歩くサラリーマンと、当時の生活も垣間見えて面白い一枚です。

善本

あたりには怖い人も多くて、ドキドキしたことも覚えています。その意味では、上野駅周辺もかなりピリつく空間でした。

ライル

「上野駅・松竹」に写っているのは、現在の〈上野の森さくらテラス〉ですね。駅を上野公園側に出てすぐの場所だし映画の宣伝看板が華やかで、怪しさとは無縁そう。

善本

左中央に写る黒い影はマーケットの入口なのですが、なにがあるかわからない、独特の雰囲気が漂っていました。少し離れた場所にも戦後の雰囲気が色濃く残っていて、これまた近づき難い。カメラを向けることすらできませんでした。

ライル

90年代にもそんな場所は残ってましたが、今やどこも綺麗になりましたね。

善本

改めて撮影して気がついたのは、歩道が広くなったこと。渋谷のセンター街や自由が丘の駅前など、歩行者にとって安全な空間になりつつある。

ライル

東京の街並みは常に変化しているから、いつ出歩いても旅行気分が味わえて楽しい。

善本

いくら撮影しても飽きることがない街ですね。

(左)善本喜一郎、(右)ライル・ヒロシ・サクソン
(左)善本喜一郎、(右)ライル・ヒロシ・サクソン