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トーマス・デマンドの机と仕事場。すべてオーダーメイドした、創作の机

ある人は「机なんて、なんでもいい」と言い、またある人は「この机じゃないとダメ」と言う。創作の手助けをする道具でもあるし、体の一部みたいに親密な存在でもあって、整えたり散らかしたりを繰り返しながら、絵や言葉やデザインが生まれる。その痕跡が残る机と仕事場を訪ねた。

photo: Rie Yamada / text: Yumiko Urae / edit: Kazumi Yamamoto

どのシーンも彼の作品に見える、ベルリンの新築スタジオにて

旧東独の秘密警察にあった資料室、ホワイトハウスの執務室など、社会的、政治的な事件が起きた現場を主要メディアから引用し、紙の彫刻で再現。それを写真に収めるという独自の手法で作品を制作し続けるトーマス・デマンド。写真作品は残るが紙の彫刻は撮影後に破棄してしまうという作風も独自で、アート界に不動の地位を築いている。

「ずっとベルリンとロサンゼルスを行き来しながら制作を続けていました。けれど、パンデミックでベルリンにとどまったこともあり、スタジオ新設に本腰を入れることに。柱や障害物がなくて光が入る大きなスペースが理想で」と友人の若手建築家、パストリ・シモンズに設計を依頼。新しいスタジオ兼オフィスが2021年1月に完成した。

机周りも、とにかく作業のしやすさが考慮されている。オフィスでは窓際のデスクから作業デスク、道具入れにも、すべてキャスターが付いているのがトーマスの流儀。「机や道具入れを自由に配置することで、プロジェクトに沿った空間構成ができるのは、とても重要なんだ」

トーマス・デマンのオフィス道具入れ
三角定規、ハサミ、カッター、糊、ポストカードなどを収納する道具入れ。ボックス内の色もそれぞれ異なり、テーブルも引き出せるよう、特注で作ってもらった。

午前中はオフィスでメールの返信をしたり、次作の構想などに時間を費やす。午後にはスタジオに下りて制作に取りかかるというのが普段のルーティンという。「紙もそうだけど、文具や道具類は日本製のものが多い。繊細で機能も優れているから」と木製のブラシを見せてくれた。

プロジェクトベースで細かく分けられているテープや定規などを見ると、まるで職人のアトリエのよう。机周りには、彼のアンテナに引っかかった資料とサンプルが並ぶ。モノは多くてもスッキリとした仕事場は、すべてがトーマスの作品にも見えてしまうほど美しく整えられている。

トーマス・デマンの仕事場
スタジオの作業机の隣には数百種類にもなる紙のストック棚が。手前には白やベージュ系、反対側には豊富なカラーバリエーションの紙、その向こうには厚さや大きさの違う段ボールと、秩序立てて収納されている。
トーマス・デマンの仕事場
体育館ほどの広さと天井高のある巨大スタジオには、作業用デスクが2台。「市販の机は高さが合わない」と、作品制作の仕事がしやすい高さと安定感を重視したデザインで特注した。