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池尻大橋〈The Condition Green〉で学ぶアブサン。主役にも脇役にもなる、甘く妖艶な緑の薬草酒

こだわりを持った造り手による多彩なスピリッツの登場は、それらをベースとするカクテルにも豊かな広がりをもたらしている。今押さえるべきジンについてバーテンダーの前所優香さんに教えてもらった。

photo: Jun Nakagawa / text: Emi Fukushima

透き通った緑色の液体が目を惹くアブサン。ワームウッドをはじめとする十数種のハーブから造られる蒸留酒だ。
「アニスやフェンネルなどのハーブに由来する優しい甘さと独特の苦味、包み込まれるような余韻が魅力です」そう話すのは、2022年アブサン専門のバー〈ザ・コンディション・グリーン〉を立ち上げた前所優香さん。

東京〈The Condition Green〉前所優香

「もとはスイスで発祥し、フランスを皮切りにヨーロッパに広まったお酒です。19世紀のパリでは、街中にアブサンの香りが漂うほど多くの人が“カクテルアワー”ならぬ“グリーンアワー”を楽しんだといわれていて。ロートレックやボードレールら歴史に名を残すアーティストたちにも愛され、作品の中でもたびたび描かれました」

まず、この8本!

東京〈The Condition Green〉店内
(1)「八月のアブサン」。ベースアルコールには青ヶ島の青酎を使用。焼酎の風味も感じる。
(2)「NAKATSUGIN アブサン」。クラフトジンの造り手が手がけるアブサン。ローズマリーやチコリの根っこなどユニークなハーブを使う。
(3)「マンサン アブサン・バイ・マリリン・マンソン」。マリリン・マンソンがスイスの蒸留所と組んで2年かけて考案。
(4)「アブサン セル ア ギウ」。クリーミーな味わいながら後味は爽やか。
(5)「アブサン ラ ションヴリエール」。フローラルな印象の優しい味わい。
(6)「アブサン リバティーン・オリジナル」。紅茶のようなほのかな甘味とフルーティさが特徴
(7)「グランド アブサント69」。比較的安価でビギナー向けの一本。レモンを漬け込んでスカッシュにするのがおすすめ。
(8)「アブサン ユーレックス オルディナーレ」。モチーフは、フランスでは、初めてアブサンを造った人物として知られるオルディナーレ医師が手がけた薬草酒。まとまった苦味が際立つ。

こうして爆発的に人々を虜にしてきたアブサンだが、主原料となるワームウッドやその他のハーブに幻覚作用をもたらす成分があるとされ、20世紀初頭には各国で相次いで製造・販売が禁止になった。

「当時はまだ科学的根拠がなかった時代です。後にワームウッドには幻覚作用をもたらす成分・ツヨンが多く含まれていると解明され、その含有量が規定されることで、解禁されました。でもいまだに危険なお酒のイメージがあるのか、蒸留が盛んな一部地域だけで消費されるお酒になっているのが実情です」

だが本拠地から離れた日本で、まさに今盛り上がりつつある。
「クラフトジンの派生でアブサンを始める造り手も登場したり、ベースアルコールに焼酎を使う蒸留所もできたり。取り扱うバーも増えていますね。当店にも若いお客さんが増えていることを実感しています」

そんなアブサン、まずはぜひ水割りを試してみてほしいとのこと。
「アブサンには、加水すると白濁する特徴があります。アブサンファウンテンと呼ばれる伝統的な給水器で一滴ずつ加水して、美しく変化する液面を眺めながら好みの濃さになるまで調整しつつ、じっくり飲むのが醍醐味です」

東京〈The Condition Green〉店内
19世紀に普及したファウンテン型給水器。富裕層たちはアブサンの入ったグラスに蛇口から一滴ずつ水を垂らし、水割りを楽しんだ。角砂糖に水を落とせば甘味もアップ。

一方カクテルに用いる際は、その個性を時に引き立て、時に隠し味として組み合わせるのが前所さん流。
「バランスが良いものはほかのスピリッツと掛け合わせてリキュール的に取り入れることもある。カクテルの中からささやかなアブサンの香りを探すのもまた面白いですよ」

まだまだ知名度の低いスピリッツだが、「正しい情報を伝えることを心がけている」と前所さんは話す。
「歴史的に見てもわかるように、アブサンは人を虜にする妖艶なお酒です。ゆえに先入観で避ける方も少なくないですが、自然素材だけでできた体に優しいお酒でもある。安心して楽しんでもらえるよう地道に魅力を伝えていきたいです」

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