改めて、『tattva』を創刊した当時の思いからお聞かせください。
花井優太
コロナ禍で生活スタイルや社会の仕組みが変化することに不安を抱える人々がいるなかで、「DXの波に乗り遅れるな!」とか、急かすようなメッセージを多く目にしました。置かれている状況がそれぞれ違うし、すぐに対応できない人もいる。乗り遅れるなと言われたら恐ろしいですよ。それ以外にも方法はあるだろうと。だから一度立ち止まってゆっくり考えることを提案できるようなメディアを作りたいと思ったんです。
平岩壮悟
スピンが付いていたり、媒体自体がじっくり読める形になってるのもいいですよね。特集もさまざまで、きっと古びないテーマを扱ってる。その時々の自分の関心に沿って手に取れるのがいいなと。
花井
コロナ禍を契機に生まれたものではあるけど、タイムレスに読み続けてもらいたいと思ってますね。一つのイシューに対して本質的にアプローチすると、時代を経てもまた新たに読み替えられる瞬間が必ず来る。コロナ禍でカミュの『ペスト』などが売れたのがまさにそうですよね。
平岩
いつも特集のテーマは花井さんが決めて、それを編集会議で共有してもらうところから始まりますけど、毎回どうやって考えてるんですか?
花井
基本的には前号で新たに浮かび上がった問いを基に特集テーマを決めていて。例えば第4号のエイジングに関する問いが、第5号での社会と新たな関係性を結び直す視点につながる。それでその取材を通して対話の重要性に気づいて、第6号の「いい会議」の特集が生まれる。前号の特集に、次号で考えたいテーマが常にちょっとだけ入ってるんですよね。
平岩
その特集テーマを聞かされた編集部員たちは最初ポカーンとしてるんですけど(笑)。とにかくみんなでディスカッションして、おのおのが企画を練ってきて、フィードバックして、っていうのを繰り返してますよね。テーマこそ花井さんが決めてるけど、中身はいい意味で放任。
花井
今までは季刊誌だったんですけど、2023年からは年2回の発行にします。その代わりに、チームtattvaとして、雑誌を作る以外のこともしたくて。構想としては、カンファレンスや、都市開発のお手伝いができたら面白いなと。取材をして識者の方にお話を聞いて終わりではなく、得た知見や新たに生まれた問いを、行動を通して継続的に生かしていきたい。外から眺めるだけでなく、中に入り込んだ活動もしてみたいと思ったんです。
ブランドは壊すためにある
第7号では、時代の変化とともになくなりゆく仕事についてのさまざまな考え方が提示されていましたが、それこそ出版業界や雑誌も明確な衰退産業ですよね。お2人が考える、これからの雑誌のあるべき姿について教えてください。
花井
「こうあるべき」という最適化を突き詰めすぎると、どれも同じような特集を組む雑誌ばかりになってしまう。リファレンスやメソッドが求められる時代ですが、雑誌の面白いところって“バグ”だと思うので、見切り発車で作る企画があっていい。
平岩
昔の『BRUTUS』もバグしかなかったみたいな。
花井
バグってますね。創刊2号目の話ですけど、西麻布でアルバムを拾ってその写真を使って特集を作ろうとか思わないですよ。「誰が読むんだよ」っていうのも、突き抜けてたらあってもいいと思うし。
ずっと続いている雑誌だからこそ挑戦するのが難しくなるのでしょうか。
花井
でもブランドってなんのために積み重ねていくかって、いざという時に使うための貯蓄だと思っていて。急に柄にもないことをやっても、きっと「『BRUTUS』なら」って読む方は多いはずです。長く続いているからこそ壊しようがあると思う。
平岩
現代アートのキュレーターであるハラルド・ゼーマンがあるインタビューで「展示の内容よりも美術館に客がつかないとダメなんだ」って言ってて。アーティストの名前とか固有名詞で惹きつけるんじゃなくて、その美術館が編集した展示ならきっと面白いんだろうなって思わせるのが理想なんだと。
花井
有名なものを持ってくればいいんじゃなくて、審美眼を売り物にしましょうっていうことですよね。
平岩
第7号では後継者の話も出てきましたけど、年長者が次のジェネレーションにいつバトンを渡すかも重要ですよね。
花井
うん。僕もいつ『tattva』の編集長を辞めようかなって考えてますから。
平岩
日本の企業って上の人が頑張ろうとしてるけど、単純明快な解決法は、その人たちが裏方に回ることかもしれない。