台湾ワインをめぐる物語
南国・台湾で造られるワインが、国際的なワイン市場に躍り出ようとしている。温暖化の影響で、世界のワイン生産者が冷涼な栽培地を求める時代に、驚くばかりだ。
台湾のワイン造りは、1895年から50年間続いた日本統治時代に始まった。1950年代には、日本の交配品種であるブラッククイーンが植えられている。ワイン用ブドウは、60年代に政府の専売になり、栽培面積は拡大する一方で、金儲けのための粗悪なワインが急増する。96年、専売制が廃止されると、経済価値を失った畑が、次々と転作されるなど、波乱の歴史を歩んできた。
2002年に政府が民間のワイン製造を許可すると、苦難に耐えてブドウ畑を守ってきた農家たちがワイン造りを始める。台湾における本格的なドメーヌ(ブドウ栽培からワイン醸造を手がけるワイナリー)の誕生だ。
台湾ワインの新時代を拓(ひら)く2つのワイナリー
台湾ワインの再興を牽引したのが、2010年創業の〈ウェイトストーン〉。ワイナリーは、台中の市街地から車で約1時間、台湾のちょうど真ん中よりわずかに北寄りの埔里の町にある。標高480m、南東向きの斜面に広がる畑を見下ろすと、遠くに中央山脈が見える。台風から畑を守ってくれる大事な“壁”だ。
赤のブラッククイーンをはじめ、アメリカ由来の白ブドウ、ゴールデンマスカット、台湾の交配品種ムサン・ブランなど5種のブドウを栽培。年間降水量は2000mm以上と、世界のワイン産地の中でも多雨で知られる日本よりはるかに多い。
「でも、日照量には恵まれていて、昼夜の寒暖差もある。土壌の保水量をコントロールできれば、豊かな果実が得られます」と、代表のヴィヴィアンさんこと楊仁亞さん。父が立ち上げたワイナリーを継ぎ、栽培醸造を自ら手がけている。
斜面の下側に石積みの堀を造り、水の流れを誘導する。収穫は、一番遅いもので1月。世界中でも類を見ない数々の試みが実践されている。
年々、品質を高めるワインは、国内外のトップシェフに指名買いされるなど、着実に評価を高めているが、「この地を表現するワインであるかが重要」と、ヴィヴィアンさん。ワイナリー名は、漁師の網のおもりの意味で、約3000年前、湖底だった畑からは今もおもりが出土する。人の意志をある土地にしっかりとつなぎ留める重石。なるほど、このワイナリーのありようをよく表している。
〈威石東酒莊 Weightstone Viny Estate & Winery〉
台湾の航空会社のファーストクラスに採用。
女性醸造家が挑む、テロワールのワイン。
2023年の1月、2019年に日本にも進出したモダン台湾料理店〈フージンツリー〉系列のカフェで、限定発売されたワインが話題を呼んだ。台湾独自の改良品種で醸したナチュラルワイン。台中西部の海沿いの町・彰化のワイナリー〈アーリン ヴィンヤード エステート〉とのコラボレーションワインだ。
アメリカでワインに親しんだオーナーが2021年に立ち上げた同ワイナリーは、彰化の生産者コミュニティや醸造家とタッグを組み、ワイン造りを行っている。
「ワインというプロダクトを通じ、台湾の農の素晴らしさを世界に発信するのが目的です」と、PR担当の吳欣樺さん。トップレストランやアーティストとのコラボレーション、収穫期のワインツーリズムの創出など、新しい計画も続々。ワインを楽しむシーンを、より多くの層へと広げている。
〈貳霖莊園 Erhlin Vineyard Estate〉
台湾の農の素晴らしさを、ワインで発信。
有名レストランとのコラボレーションも。