嘉義市街から車や鉄道で約3時間。海抜2000mの森林地帯が広がる阿里山は、夏でも涼しい山岳リゾートとして人気のスポット。森の中を走る山岳鉄道「阿里山森林鐵路」や、ダイナミックな雲海が見られる御来光スポットなど見どころはたくさんあるが、今、気になるのは、近年世界的に注目を集めている阿里山コーヒーや、昨年オープンした最新ホテルなど、森の恵みや、それを取り巻く文化から派生する新しいカルチャーだ。
最近のニュースは2022年から始動したアートプロジェクト『森、2488m』。林業で栄えた阿里山の歴史や、人と自然の関わりを伝える取り組みで、阿里山バスターミナルにはアーティストによる展示も。阿里山國家森林遊樂區内ではトレッキングルートにインスタレーションが設置されていて、アートハイキングが楽しめる。
もう一つの注目が昨年オープンしたリゾートホテル〈阿里山英迪格酒店〉。ホタル舞う竹林をイメージしたロビーや、阿里山のツォウ族の神話に基づいた客室デザインなど、随所に自然や文化へのリスペクトがちりばめられている。原住民族の伝統料理をアレンジしたフュージョン料理や阿里山コーヒーの農園見学なども気になるし……、1泊じゃ足りない!
Hana廚房
森に抱かれながら食べるツォウ族の現代風料理
ツォウ族のご主人と南アフリカ出身の妻が営む森の中の一軒家レストラン。看板メニューはツォウ族の伝統的な料理を現代風にアレンジしたBBQプレートで、ソーセージやスパイス香るベーコンを天然酵母を使った自家製パンや野菜で挟んで食べる。自家菜園で育てた野菜を使った窯焼きピザも人気。シナモンロールやキャロットケーキなどの手作りスイーツも。森で採集したハチミツや果実ジャム、店で使われている手製チリソースなどを販売するショップも併設する。平日でも予約が確実。売店利用のみも可。
阿里山英迪格酒店
森に抱かれたリゾートホテルで阿里山の自然や文化を体感
昨年オープンした山岳リゾートホテルの目玉は、阿里山の絶景を見渡す屋上のインフィニティプール!クールなデザインでありながら、内装の随所にツォウ族に伝わる神話をモチーフにした装飾を施すなど原住民族文化へのリスペクトを大切にしている。テラス付きの客室からは晴れた日には山から昇る御来光が見られ、各部屋には阿里山コーヒーや高山茶のティーバッグなどが豊富に揃う。ゆっくり滞在しながら阿里山の文化や歴史に触れられる、森と一体化したようなホテルだ。
鄒築園
コーヒーで拓く阿里山と原住民族の未来
今や世界中からコーヒー豆のバイヤーが訪れる阿里山。以前は茶畑の片隅でほそぼそと栽培されていたコーヒーを名産品にしたのは、ここで生まれ育った若きツォウ族の青年だった。方政倫さんは現在44歳。台北で機械関係の勉強をするもうまくいかず、22歳で阿里山に帰郷。茶農園を営む父が趣味で植えていたコーヒーをいじるうち、興味が芽生えた。
「コーヒーが阿里山の新しい産業になれば、僕やツォウ族の若者の人生の扉を開く鍵になる」。その思いを胸に様々な品種を植え、コーヒー栽培を研究。育てるのが難しい貴重な品種「ゲイシャ」の安定的な栽培に成功するなど、新しい扉を開き続けてきた。ここ10年、国内外のコンペティションで常に上位にランクインする方さんは“コーヒー王子”と呼ばれ、地元のツォウ族の青年たちがその後を追ってコーヒー栽培や精製・焙煎を始めるようになった。
「僕の知識や技術はすべて伝えていくつもりです。最終的な目標は、これまで弱い立場にあったツォウ族が、コーヒー産業によって強く成長すること」と方さん。阿里山で実をつけるコーヒーツリーは、この地の未来そのものだ。
“コーヒー王子”が作る奇跡の一杯を飲める店
方政倫さんが農園の近くで営むコーヒーショップ。世界の品評会で高い評価を受けている「ゲイシャ」をはじめ、貴重な品種を使ったコーヒーを味わえる。ナチュラルやハニーウォッシュなど、精製法ごとに繊細に風味や香りが変化するので、数種類を飲み比べて阿里山コーヒーの奥深さを体感するのも面白い。自家焙煎の豆も購入可能。方さんの妹が手作りするスイーツも素朴でおいしい。事前予約制で農園の見学も可能。