ミルクブルーの海、急勾配しかない登山、そして広がる絶景。台湾・亀山島へ

photo: Kazuharu Igarashi / text: Ikuko Hyodo / coordination: Mari Katakura

台北からわずか1時間でアクセスできる宜蘭には、独特の食文化や温泉、さらに足を延ばせば、郷土愛の強い宜蘭の人たちのよりどころといえる、亀山島もある。裏庭とはもう呼べなくなる、宜蘭の魅力を真正面から感じる旅に出よう。

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「宜蘭の人にとっての精神的なよりどころ」という亀山島へ向かう。頭城から東に約10㎞の沖に浮かぶ亀山島は、約2.9㎢の小さな島。海に浮かぶ亀のように見えることからこう呼ばれ、人が住み始めたのは1820年頃。多いときは700人以上が暮らし、豊かな漁場から恵みを受けていたが、交通、医療、教育面などで課題が生じて徐々に過疎化が進み、1977年までに全島民が台湾本島に移住。そして住民と入れ替わる形で軍事管制区となり、2000年に一般開放された。長らく立ち入りが制限されていたため、島には豊かな生態系が残され、それらを保護するために現在も1日の上陸人数に制限を設けている。

烏石港から40人ほどのツアー客を乗せて、船が出発した。島が近づいてくる光景は迫力がある。上陸前に沿岸を周遊するのが、一つ目の山場だ。このあたりは海底火山が非常に多く、特に亀首の周辺は海底温泉になっている。湧き上がってくる温泉と海水が混ざり合うさまは、まるで海にミルクを注いでいるかのように神秘的な光景なのだ。ミルクの海に船が分け入っていくと硫黄のにおいが立ち込め、船の上にいながら温泉に浸かっている錯覚を起こしてしまう。

1,706段の石段を登る。平坦なところは少ないが、途中の東屋で登ってきた高さを実感できる。

海を上空から見るべく、上陸して甲羅部分の最高地点を目指す。登山路は階段が整備されていて、その数1706段。階段であればそこまできつくないと思っていたが、読みが甘かった。観光客がトレッキングするために整備された登山路ではなく、軍が頂上で見張りをするために造った道だったのだ。石段の段差は高く、途中で平坦になるところもほとんどなく、急勾配が規則正しく続いていく。

ガイドの説明によると「階段がなかった頃は3時間かけて頂上まで行き、2時間見張りをして、また3時間かけて下っていたそうです。あるとき軍の偉い人が来て、そんなに時間がかかるわけがないと登ってみたら本当だった。それで97人で90日間かけてこの階段を完成させたのです」。階段には100段ごとに表示があり、それを励みに登るものの、後半は自分との闘い。しかしなぜ、こんなところで自分と闘っているのか、ふと我に返っておかしくなり、木々の隙間から時折見える海が清々しくもあり……、つまりはナチュラルハイになっていた。

約1時間かけて登り切り、周りを遮るものがなくなった。共に登った人たちとも、心なしか一体感が生まれている。これまでいろんなところで青く、美しい海を見てきたが、亀山島の海の青さは今まで見たどの海の色とも違っていた。そしていつまでも眺めていたくなる、形のとどまらない青だった。烏石港に戻り、陸地から遠くに浮かぶ亀山島を眺めたとき、親近感とともに、宜蘭の人のように誇らしい気持ちが芽生えていた。

甲羅の部分に当たる最高地点から望む亀首と、湧泉と海水がマーブル模様を描く神秘的な海。