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並べ方も読み方も、ランダム性に委ねる。ラッパー・TaiTanの本棚

ラッパーとしてはもちろん、人気ポッドキャスト番組『奇奇怪怪』のパーソナリティとして、あるいは実験的な企画を手がけるクリエイティブディレクターとして。興味の赴くままに領域を行き来しながら活動を続けるTaiTanさん。その身のこなしの軽さと同様に、自宅の本棚からは、本との肩肘を張らない軽やかな付き合い方が垣間見えた。

photo: Koh Akazawa / text: Emi Fukushima

興味を反映して変化する本棚と、衣食住に溶け込む本

ダイニングテーブルに、階段の脇に、トイレの一角に。TaiTanさんの自宅には、至るところに本が置かれている。

「僕はもっぱら“積ん読信奉者”です。気になった本は手当たり次第に買って、身の回りに置いていて。生活の中でそれらが自然と目に入る状況を作り、自分が今何に興味があるかを可視化することで、頭の中が整理できたり、自分なりの視点が見えてきたりするんです」

特に長い時間を過ごすリビングに本棚を据えたのも「本が自然と視界に侵入してくる環境にしたい」との思いから。社会学の本やエッセイ集、文芸誌にビジネス書まで、ジャンルも時代もない交ぜになった600冊ほどが、縦に横に所狭しと詰め込まれている。

「この本棚は、単行本が3列並べられるほど奥行きが深くて。新しい本が自然と前列に並ぶだけじゃなく、突発的に読み返したくなって引っ張り出した本が前列に来ることもあるし、優先順位の下がった本が奥の列に押し込まれることもある。その時々の興味を反映した本棚へと、勝手に育ってくれます」

外出するたび、習慣のように書店へ足を運び、ひと月に増える本は20~30冊。家の内外あちこちで本に接する彼ゆえに、本の読み方にも気負いがない。

「初めて手にする本であれ再読本であれ、じっくり通読しようという意識はあまりなくて。飛ばし読みや部分読んみをしながら、面白い瞬間を拾うイメージで読んでいます。何かをインプットしたいというよりは、ただ本の中に転がる雑多な情報に身を委ねたいという感覚。いつかの自分の糧になれば、くらいの軽い気持ちで開いています」

こうしてなにげなく触れた本が、新しいアクションへの契機となることもある。例えば彼が2020年にポッドキャスト番組を始めたきっかけは、本棚に潜んでいた一冊が与えてくれた。

「学生時代に手にした内沼晋太郎さんの『本の逆襲』。当時は何の気なしに読んだんですが、コロナ禍で数年ぶりにパラパラと眺めていた時に“本を作るとはどういうことか”を論じた箇所が目に留まって。ここで展開されていたのは、本を作るとは本来、“テキストの集積”を作ることだとの指摘。ならばと思い至ったのが、会話を収録した音声データを作成することで本を作るアプローチです。『奇奇怪怪』を始めたのも、その書き起こしを書籍化する試みも、この本からの影響です」

この作品のように、本棚に並ぶ多くは断片的に彼の現在を形作ってきたものばかり。「僕にとって本は、単なる情報やデータでもなければ、うやうやしく扱う対象でもない。食事や睡眠と同じように、ページをめくる行為が生活の中に自然と存在しています」とTaiTanさん。

雑多な中から一冊を手にし、ザッピングするようにページをめくっては食指が動いたところで手を止める。ごく日常的なその繰り返しの末に、彼の広い視野は養われていた。