戦前に日本の洋食文化が伝わった台湾で日本式カレーが流行中
台北市の西側を流れる淡水河。そのほとりに位置する大稲埕(ダーダオツェン)地区は水運で栄えた歴史を持つ。裕福な商人や芸術家、文化人が多く暮らし、西洋の文化がいち早く入ってきた場所でもある。台湾が日本の統治下にあった1930年代には日本式の純喫茶や洋食店が流行した。その代表格とされたのが〈波麗路 BOLERO〉。
一方、同時期に開店した〈菊元(きくもと)百貨店〉や台南の〈林(はやし)デパート〉の食堂でも洋食が人気を博し、「子供の頃に食べたハヤシライスが忘れられない」という年配者の声もよく聞く。
現在、洋食を謳う店は多くはないが、新たな動きはある。カレーやナポリタン、卵サンドなどの洋食メニューを供するカフェや喫茶店が増えているのだ。これらの店は昭和モダン風や京都風など、内装も凝っている。さらに2022年末にはNetflixドラマ『First Love 初恋』が流行し、劇中に出てくるナポリタンが台湾でも話題となった。日本のカルチャーが深く浸透する台湾。洋食ブームが来る日も遠くなさそうだ。
〈日向洋食〉
台北の若者たちを魅了する昭和レトロな洋食店
台北最大級のナイトマーケット〈士林夜市(スーリンイエスー)〉の外れにある洋食店。4年前にオープンするや、瞬く間に話題を集め、今や不動の人気を誇っている。店主の何明諺(フー・ミンイエン)さんは、ステーキハウスや日本式の居酒屋など、数々の飲食店で働いた経験を持つ。
「日本はパスタやカレーなど、外国料理を独自のスタイルに発展させる文化があり、そこに強く惹かれた」と語る。洋食店で働いた経験はなかったものの、書籍や雑誌、インターネットからも知識を得て、日本の味を再現した。店内の内装は、「日本のドラマで主人公が行きつける店」をイメージしている。
2階席は純喫茶をテーマにし、オーダーメイドの赤いベロアのソファが目を引く。メニューはカレーからハンバーグ、フレンチトーストまでと種類は豊富。いずれもボリューム満点で、大学生の常連も多い。彼らが卒業後も通い続けるような記憶に残る味を作っていきたいという。
〈波麗路〉
お見合いの場所として知られた創業88年の名店
台北の旧市街にある〈波麗路〉。ご近所さんが気軽に食事を楽しむ店だが、1934年の創業時は高級洋食店として名を馳せていた。創業者の廖水來(リャオ・スェイライ)さんは日本や欧州で修業を積み、洋食をメインとした〈カフヱー ヱルテル(Café Werther)〉で料理長を務めた後、独立して店を構えた。音楽好きの廖さんは、自動再生可能なレコードプレーヤーを海外から入手し、クラシック音楽を流していたという。
官吏や地元名士のほか、著名な画家や音楽家、作家なども訪れ、文化サロン的な役割も果たしていた。同時に、良家の子女たちのお見合いの場としても人気だったという。
メニューには今もカレーライスやポークカツレツ、グラタンなどが並ぶ。往時を懐かしみ、年配者が孫を連れてくることが多いほか、戦前に高等学校に通っていた人たちが同窓会を開いていたことも。台北人の思い出が詰まった店内。昔ながらの洋食を楽しみたい。