【トーストのルール】
1:パンを焦がすのはご法度。常に見張るべし。
2:バターは均一に塗る。決してパンを潰さない。
3:コンフィチュールで味のバリエを楽しむ。
最強のトースト審査員が集合!
あれは2014年のお取り寄せ特集でのこと。ひっそりと地味な佇まいながら、読む者の心をわしづかみにした企画を覚えているだろうか?その名も「最強のTKG(卵かけごはん)を探せ!」。日本全国から集めた米、卵、醤油をテーマに沿って10のセットにして、3人の達人がテイスティング。そのうえで、気になるアイテムを各人組み合わせて、1000通りの中から理想のTKGを探るという、壮大な内容である。
今回はそんな企画の第2弾で、対象は食パン+バター+コンフィチュール(ジャム)=トースト。和風の次だから、洋風という安易な選択では決してない……。理想のトーストを探るのは、パンのエキスパート3人。
日本中のパン屋に赴き、パンを食べ、パンについて書く、パンの求道者のごとき池田浩明さんと、恐らくは日本でただ一人のバタートースト評論家である梶田香織さん、愛犬キップルと日々の朝食を記録した『パンといっぴき』の著者としても知られる料理研究家の桑原奈津子さん。いずれ劣らぬパンラバーに、まずはトースト考について聞いた。
梶田香織
トーストといえば、重要なのは焼き色。少しでも焦がしてしまうと負けた気がしませんか?
池田浩明
敗北感がありますよね。一日が台なしになる。
梶田
おかげで、ついトースターを見張ってしまうんです……。
桑原奈津子
確かに、私も見張ってるかも(笑)。お2人にはベストな焼き色ってありますか?
梶田
パンに含まれる糖分や油脂分の割合で、焼き色も違いますよね。
池田
トーストの魅力って、味わいのグラデーションだと思うんです。白い身の部分と少し焦げた耳の部分の両方の味わいが感じられるのがベスト。中でも、僕はミディアムレアが好きかな。一般に流布している“こんがりきつね色”よりは少し薄めに焼き上げるのがいい。
桑原
わかります。中のソフト感を楽しみたいんですよね。焼きすぎると水分が抜けてしまうから。
池田
僕が提唱しているのは、表面パリッ、中ふわっの2つが共存している“パリふわ理論”。中まで火が通ってふわっとした状態にするのが、なかなか難しい。
梶田
バターの塗り方には、何かこだわりはありますか?
桑原
これまでいろんなマイブームがありましたが、今は後のせ派。食パンが焼き上がった瞬間、トースターに入れたままの状態でバターをのせ、余熱で軟らかくしてから取り出してまんべんなく塗るスタイルです。
池田
僕もそれが一番いいと思う。冷めた食パンに冷たいバターを塗ろうものなら、溶けずにパンを潰してしまいますからね(怒)。かといって再加熱すると、ベストな状態から遠ざかる(怒)。いっそ包丁でバターを薄くスライスしてのせ、口の中で溶かすというのも手です。
桑原
温かいパンに、冷たいバターがまた合うんですよね。
梶田
私は、本当においしいバタートーストを食べたいときは2度塗りしています。自分の好きな焼き色の一歩手前でパンにバターを塗り、もう一度加熱して最後にまた塗る。
池田
追いバターですね。
梶田
最後にのせると、香りが立ってフレッシュ感も味わえるんです。バターは熱を加えると、コクと甘味も出ますし。バターナイフで均一に塗るのが難しいときは、菜箸でつかんで塗ったり、銀紙に包まれた四角いタイプなら銀紙の部分を持って直接パンに塗ればうまくいきますよ。ちょっと横着ですけど(笑)。
池田
そうして溶けたバターにコンフィチュールが加わると、とろける快楽が三つどもえに……。コンフィチュールも溶ける時間があるので、シンクロさせるのがいいでしょうね。昔ながらのプレザーブスタイルはパンの上で溶かしてから、サラサラタイプはのせてすぐという具合。
桑原
実は私、トーストにはあまりコンフィチュールをのせないタイプです……。それだけに、今回どんな組み合わせができるか楽しみ。
梶田
私もそう。完璧に焼き上げたバタートーストはついそのまま食べてしまう。ただ、時々コンフィチュールをのせると非日常的な心地よさを味わえるのも事実です(笑)。
池田
コンフィチュールは、オプションという認識でいいんだと思います。コンフィチュールを加えることで味のバリエを楽しむ。いろいろな種類を並べて、一口一口味を変えていくという贅沢もあっていい。
各人の好みとこだわりが入り乱れ、波乱の様相を呈するトースト談議……。いよいよ実食が始まる。