Feel

Feel

感じる

『孤独のグルメ』原作者・久住昌之の散歩道

歩くスピードでなければ気づけないものがあり、その小さな発見を辿るようにして歩みを進めることは、まるで街との対話のようなものでもある。久住昌之さんの散歩のスタイルから見えてくる、東京の風景とは?
初出:BRUTUS No.919東京の正解』(2020年71日号)

illustration: Genta Inoue / text: Toshiya Muraoka

土の遊歩道を、
偶然にまかせて気ままに歩く

散歩に正解なんてないんです。目的もないし、ゴールもない。自分をリラックスさせるためのものだから、その日に思いついた道を歩けばいい。

先日は、事務所のある吉祥寺から、井の頭公園の真ん中を抜けて玉川上水沿いの緑道を歩きました。東京にいると土の道を歩くことが少ないので、土の遊歩道を歩きたかったんです。
モサモサと植物があって鳥もいっぱい鳴いていた。道端にカタバミが生えてたんです。オクラを超小さくしたような細いつぼみがツンツン立っている。そのつぼみを触るとピンピンピンって種が弾けるんですよ。

子供の頃にも触って種が顔に当たったのを思い出して、しゃがんでみたらピンピンピンって飛んできて、「ああ、これだ」と懐かしい感触でした。子供の頃は地面に近いところで遊んでいたんだなって思い出した。散歩や旅って、新しいものにも出会うけど、ずっと忘れていた昔のことを思い出すんですね。

何か記憶がもぞもぞするような。こだわりとか計画を持っていると、そういうものを見落としてしまう。こだわりは禁物です。

玉川上水沿いに裏口がある〈キッチンひだまり〉という店があるのは、前から知っていたんです。人の家みたいでものすごく入りづらいんだけど、ちょうど昼時だし、初めて入ってみたんですね。どの駅からも遠いから、お客さんはほとんど近所の人ばっかり。「瓶ビールください」って頼んだら、「私、飲まないから種類がわからないんだけど、黒ラベルかしら」って。

いいですよーと答えて運ばれたのが「アサヒスーパードライ」(笑)。とてもいい感じのお店でしたね。ラーメンとプラス餃子っていうセットを頼みました。北海道の西山製麺の麺を使っているって書いてありましたね。醤油ラーメンはさっぱりしてておいしかったけど、オススメは味噌だったのかも。

僕は散歩の食べ物は出会いだと思っているんで絶対に決めていかない。いいものがあったら食べるし、なくてお腹を減らして泣くのもよし。

マンガ家・久住昌之の散歩道 マップイラスト

そのまま玉川上水の遊歩道を歩いていくと大きな通りにぶつかって、その先に最近整備された一直線の遊歩道がずっとあったんです。「聞いてないぞ」と思いましたね(笑)。

注意書きの看板があって、「緑道内はバイクで走らない」とか書いてあるんだけど、「犬のフンや毛は持ち帰りましょう」ってあったの。フンはわかるけど、毛?毛まで持ち帰らなきゃならない(笑)。

「ランナーはゆっくり走りましょう」とも書いてあって、注意が細かいんだ。そこを進んでいくと暗渠になってしまうので左に折れると、拡張中の高井戸公園の姿が。思いも寄らない広さで、またも「聞いてないぞ」と。重機が働いているのを見てたら蚊に刺されたりして、もう出たかと。

どこかの駅から電車に乗って帰ろうと思っていたけれど、気持ちよくなって、今度は神田川沿いを歩いて帰りました。