JR札幌駅から、函館本線で西へ1駅。桑園駅は札幌市中央卸売市場の最寄り駅で、周辺には食品倉庫が点在する。夜は静かなこのエリアがにわかに活気づき始めたのは、2023年の2月。元は倉庫だった場所に日が暮れればポツリと点る明かりを目指し、ローカルが集まり始めた。
明かりの主は、ブルワーの川村洋平さん。この場所に2023年2月、〈Streetlight Brewing〉を立ち上げ、共同代表を務める。併設のタップルームは開業早々、週末は満杯になる盛況ぶり。特に若者から圧倒的な支持を得るのは、ひとえに川村さんがクラフトビール業界きっての“ポップスター”であることが大きい。
生まれは北海道。〈はこだてビール〉で経験を積み、25歳で独立後は、醸造所を持たないファントムブルワー〈Hobo Brewing〉として、神奈川〈YOROCCO BEER〉、アメリカ〈Culmination Brewing〉など、国内外の人気ブルワリーとコラボレーションしてきた。自前の設備がないのは不便だが、場所に縛られないからこその面白さがあると話す川村さん。
「共同でレシピを考案することで、思わぬ化学反応が起こることがあります。また自分が動くことで、人との繋がりが生まれるのも楽しい」。そのフットワークの軽さが生んだのが、異業種とのコラボレーション。人気イラストレーター・白根ゆたんぽさんがボトルのラベルを描いたり、中原慎一郎さんが当時主宰していた〈Landscape Products〉とビールを造ったり。業界の垣根を越えた協業が従来はビアファンでない層にも響いた。
ではファントムブルワーでもある川村さんが醸造所を持つ理由とは?
「実は札幌市内には、小規模なブルワリーしかありません。札幌のクラフトビール文化の明かりがさらに輝きを増すためには、ある程度の規模の醸造所が必要。その思いから、醸造所開業への道は始まりました」
醸造所を持つことで広がる、ビールのバリエーション
タップルームからガラス越しに見える醸造所の発酵タンクの容量は、計1200Lで10本相当分。従来のファントムとしての活動では仕込む量に限度があるが、この容量なら、札幌の飲食店や全国の酒販店に卸す余裕もできる。
「設備は大きくなりましたが、造るビールの大枠は今までと同じ。ケルシュにしろ、IPAにしろ、サラリと軽やかな飲み口を大切にしたい。今後定番を造ることも含めて、さまざまなビアスタイルを醸造し、日々の生活に寄り添うようなフレーバーを追求します」。雑味が少なく飲みやすい川村さんのビールは、客を選ばない。銘柄のネーミングやラベルのアートワーク同様に、非常にキャッチーだ。
またソロ活動と銘打ち、〈Hobo Brewing〉の醸造も続けると話す川村さん。〈Streetlight Brewing〉が存在することで、さらにマニアックなビールにも挑戦できるという。自分の城を持つことで、さらに表現の幅が広がったスターブルワー。次なるコラボレーションも楽しみだ。
最北の醸造所でも続く、“方々”の活動
故郷の北海道をベースにファントムブルワーとして活動してきた川村さん。旭川と稚内の中間に位置する美深(びふか)町で2019年に開業した、日本最北のクラフトビール醸造所〈美深白樺ブルワリー〉でもビールを仕込んできた。今回は川村さんが醸造長の高橋克尚さんに会いに行くということでその旅に同行。
「フラッグシップのIPA『WHITE LINES』のレシピは僕が考案しました。その後、高橋さんがブラッシュアップして、よりクリーンな飲み口になっています」。