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石を眺めて太古の昔に思いを馳せる。地質技術者・長谷川怜思の石の話

高く連なる山々も、かつては海の底であったり、世界的にも珍しい岩石からできていたりする場合もある。それが分かるのは、山に石があるから。石を通して山を見れば、万年億年単位の壮大な地球の歴史が見えてくるのだ。

photo: Satoshi Hasegawa / text: Ryota Mukai

地質技術者という仕事をご存じだろうか?地質や地盤を調査するスペシャリストだ。例えばダムや道路を造ろうというときに、その地に出向いて石を見極め、構造物を作る際の強度や地盤の特性を評価して、それらを造っても安全な場所なのか?工事を行う際には何に留意すべきなのか、といった問題に取り組む仕事だ。

そんな地質技術者として20年以上のキャリアがある長谷川怜思さんに、石について尋ねた。

「石を見れば、その土地の成り立ちがわかるんです。例えば富士山は、いまでこそ日本一高い山として知られていますが、その起源はほんの40万年前頃。「地質図」と呼ばれる石の地図を見ると十数種類の多様な地質や溶岩から構成されていて、どれくらいの時期に噴出したのか、当時の溶岩がどのように流れて下ったのかということも判別できるし、噴火以前の地形もある程度予測ができる」

石から何万年という過去が覗けるなんて、なんともロマンチック。さらに日本の地質は、世界的に見てもかなり多様性に富んでいるのだそうだ。

「日本列島は、地球を覆っているプレートが4つぶつかり合っている場所にあたります。地震や火山活動が盛んなのもその影響ですね。そうした変動帯であると同時に、温帯で雨も降る。ユニークな地理と地質が組み合わさり、様々な自然環境が共存しているんです」

山に転がっている石の小話、5つ

では、この島の山々をつくる石にはどんなものがあるのか?そのストーリーも併せて教えてもらった。

滋賀県と岐阜県にまたがって聳える伊吹山。日本百名山のひとつだが「地質学的に見ると、なかなか渋い百名山(笑)」と長谷川さん。というのも、この石灰岩は約2.6億年前のものだから。つまり富士山はもとより、百名山のなかでもかなり大先輩格の山なのだ。

「石灰岩は炭酸カルシウムからなる生物の死骸が固まってできたものだから、伊吹山はかつてはサンゴ礁だったということもわかります」

「ユネスコの『世界ジオパーク』にも認定された北海道の山で、日高山脈の一部でもあるアポイ岳。そしてかんらん岩とは、地球の内部にあるマントルを形作る石です。どうして山の頂上にこんな地下深い石が存在するのか?それは、昔ここで衝突した2つのプレートの一方が、もう一方に乗り上がった結果、マントルまでめくれて剥き出しになったのだろうと考えられています。アポイ岳の山頂では地球の内側を観察できるのです」

「関東から九州まで約1,000kmにわたって分布する岩は三波川変成岩と呼ばれます。このエリアの岩石はプレートとともに地下100kmまで沈み込み、強烈な圧力と熱にさらされて鉱物や組織が変化して別の岩石になることがある。そのひとつであるこのざくろ石片麻岩の赤い縞模様は、その際に引き伸ばされた鉱物の粒子なんです」

「ベントナイト鉱石は、微細な粘土が固まってできた石で水を含むと膨張します。実は普段使っている肌用のクリームなどにも使われています。石も日々の暮らしに役立っているものも多いんです」

「黄色に輝く黄鉄鉱は、残念ながら黄金ではありません。硫黄と鉄が結びついた鉱物で、かつては硫酸の原料として使われていました。太古の生き物の遺骸が長い時間をかけて黄鉄鉱に置換されることもあり、大きな結晶はこのような輝きを放ちます」