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写真家・山谷佑介が15年探索し続ける、野湯の魅力

2023年4月に刊行された写真集『ONSEN I』は、その名の通り温泉をテーマにした一冊。しかし、ただの温泉ではない。写っているのは自然のなかで自噴する“野湯(のゆ、やとう)”だ。本書の著者で、約15年にわたり野湯を探索してきた写真家・山谷佑介さんに、その魅力と初心者でも楽しめるスポットを教えてもらった。


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photo: Yusuke Yamatani / text: Ryota Mukai

「野湯に入り始めたきっかけは、15年ほど前のこと。大学生のときに日本縦断の一人旅をしたんです。北海道からバイクに乗って九州へ、ずーっと走っていくんですけど、とにかく暇なんですね(笑)。でも、どこにでも温泉はある。旅の間の、ほとんど唯一の楽しみが湯に浸かることでした。そのときに野湯の存在も知って、入るようになって」と山谷さん。

そもそも日本に温泉が多い理由のひとつは、火山列島だから。北はニセコから、青森の酸ヶ湯(すかゆ)、那須に箱根、西は別府、雲仙と、これらはどれも火山のマグマ溜まりを熱源とする火山性温泉だ。これらの中でも、温泉宿などの商業施設によって管理されておらず、自然のままに湧き出る場所が野湯だ。

「ときには山中の洞窟内で、ときには硫黄が垂れ流される岩肌を真横に眺めながら、といった具合にダイナミックな景色の中で過ごせるのは大きな魅力のひとつ。それに、必ずしも正確な情報がたくさんあるわけではないんです。そんなときには『この山のどこかにある!』と、推理しながら進むこともあります。そんな冒険を経て湯に浸かれば、感慨もひとしお。サウナにおける“ととのう”じゃないけれど、独特のトリップ感も味わえる。いわゆる温泉も大好きだけど、このトリップ感は山に登ってこそなんです」

ビギナーはここから。野湯らしさを感じられる、3つの場所

初心者でも無理することなく野湯の雰囲気を味わえるスポットを3つ教えてもらった。「安全のためにも、日が出ているうちに行きましょう。夜の山は暗いだけでなく、獣が出ることもあって危険です。あとは、捨ててもいい服を持っていくことを忘れずに。野湯上がりの硫黄臭は、想像を超えます(笑)」。

1.尻焼温泉(群馬県)

尻焼温泉

「源泉が川底から湧いていて尻が焼けるように熱くなることから、尻焼温泉と呼ばれています。草津の近くにある温泉で、特に『川の湯』と呼ばれる場所が有名です。巨大な露天風呂で気持ちがいいし、車で行けるのでアクセスもいい。野湯界のなかでもメジャーなスポットのひとつです」

2.鍋山の湯(大分県)

鍋山の湯

「別府湾を望む火山、鶴見岳の麓に位置する野湯です。町から車で20分ほど、そこからさらに20分ほど山道を登ったところにあります。町から近く、ちょっとした登山も楽しめる。僕が初めて訪れた野湯で、長崎に住んでいた頃にもよく足を延ばして行っていたほど好きなところでもあります。近くに別府の山々を、遠くには街並みを望める、気持ちのいい場所です」

3.梶山元湯 洞窟温泉(新潟県)

梶山元湯 洞窟温泉

「険しい道を行ってやっと辿り着ける……そんなワイルドな野湯体験をしたいならまずは先生と一緒に。その名の通り、洞窟内にある温泉で、標高700m近いところにあります。目的地までは渓谷沿いを歩くこともある、まさに秘湯です。でもここは私有地で、勝手に入っていけないので体験プログラムに参加することが必須。温泉にたどり着くまでの険しいトレッキングの道のりにも付き添ってくれるので、ビギナーも安心して楽しめます」