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ユニークなスピリッツを次々リリース。蒸留の面白さに夢とロマンを懸ける、鹿児島〈佐多宗二商店〉

世界で蒸留所が勃興する潮流は日本全国津々浦々になだれ込んできている。ある者は日本の伝統的酒造りをベースに革新を求め、またある者は地域の生産者とともに独自の未知なる味を探す。ジン、ウォッカ、ラムなど既存の枠にとらわれない酒造りをする地を訪ねた。

photo: Yoshikazu Shiraki / text: Michiko Watanabe

蒸留の面白さに夢とロマンを懸けて
ユニークなスピリッツを次々リリース

サツマイモの産地として知られる鹿児島県頴娃町。豊かな自然に囲まれた鄙に、まるでヨーロッパのような赤屋根の建物が並ぶ。〈佐多宗二商店〉のAKAYANEクラフトスピリッツを醸す蔵群だ。

中に入って驚いた。ほかの焼酎蔵にはない、ユニークな形のぴっかぴかの蒸留器がドドーンと鎮座している。圧倒的な存在感だ。

アーノルド・ホルスタイン社性の蒸留器
ジャン=ポール・メッテ社と同じドイツのアーノルド・ホルスタイン社製。すべて蔵人の要望に合わせてオーダーメイドするという。蒸留酒なら何でも対応可能の心強い味方。

「蒸留によって酒質が変わる」。3代目の佐多宗公さんがそれを知ったのは、フランスで営業活動をしている時だった。それまで蒸留なんて気に留めることはなかった。

「焼酎はどうせ蒸留するんだから、途中どんなに凝っても結局同じものにしかならない」と、先人たちから教わってきたからだ。ところがフランスでは行く先々で、蒸留の大事さをこんこんと語られる。

そこで、蒸留によって酒質の可能性が広がるのだと確信した佐多さん、早速実験。

同じ日に仕込んだもろみを、異なる蒸留器で蒸留したところ、「違いが鮮明にわかった。料理も鍋とか火加減によって味が変わるでしょ。あれと同じ」。そうして得た原酒をブレンドすることで、ぐっと深みが増す。「それが蒸留の面白さなんです」

始まりは、フランス・アルザスで“オー・ド・ヴィーの法王”と称されるジャン=ポール・メッテ社を訪ねたことだった。「日本人でここに来たのはお前が初めてだ」と、面白がる当主・フィリップ・トラベさんに蔵を案内してもらい、蒸留器を見てのけぞった。

「すっげー。かっこいい」。初めて見たマシンは佐多さんのココロを激しく揺さぶった。これで酒を造るのかと思うとワクワクが止まらなくなった。すぐさま、ドイツまで車を駆ってマシンを見に行き、注文したという。このトラベさんとの出会いがAKAYANEの原点である。

アルザスには、裏庭の倉庫でちょこっと造るような、小さな蒸留所がたくさんあった。

「言ってみれば、日本の漬物感覚なんです。庭のハーブで仕込む。これがスピリッツの原点だと思いました」。

日本の素材で、日本ならではのスピリッツが造れる!蒸留から、ブレンド、貯蔵方法まで、事細かに手ほどきをしてくれたのはトラベさんだった。

現在、蒸留器は9基。自家製の芋焼酎をさらに蒸留してベースを造り、ショウガ、山椒、カボスなどのボタニカルや七味唐辛子などを入れて、約20種のクラフトスピリッツを手がける。カボスのように木になるものは樽に入れて寝かせ、ショウガなど土の中で生長するものは甕に入れて、シラスの中で寝かせている。

「これもトラベさんに教わったことですが、温度調整はせず、この地の自然に任せています。そうすることで、テロワールを表現した、うちだけのスピリッツができるわけです」

しかし、今寝かせているものが花開くのはまだまだ先のこと。「そこに壮大なロマンがある。同時に、自分は飲めないかもという残念さも(笑)」。佐多さんの熱い思いと野望がこもったスピリッツは、未来への贈り物となる。

イタリアのグラッパ蒸留器
イタリアのグラッパ蒸留器。ブドウの搾りかすからグラッパを造るように、「角玉梅酒」を取り出したあとの梅でブランデーを造れないかと完成したのが、AKAYANE PLUM。