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サントラ・ブラザースの今夜もハイフィデリティ!Vol.1 80&90年代映画音楽レコード談義

都内のクラブなどを中心にDJとして活動している鶴谷聡平(長男)、山崎真央(次男)、渡辺克己(三男)による通称“サントラ・ブラザース”がBRUTUS.jpで新連載。第一回はレコード初心者も親しみやすい話題から。

Text: Katsumi Watanabe

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80年代のサントラが、
なぜ今カッコよく聴こえるのか。

__まず、なぜ映画のサウンドトラックを、レコードで集め始めたんですか?

渡辺

1990年代は、レコードを安く買うことができたんですよ。ちょうど、音楽ソフトがレコードからCDに変わる端境期で、CDよりレコードの方が500円から1000円くらい安く買うことができた。だから、DJのときにかけるダンスミュージック以外にも、家聴き用にいろいろなジャンルのレコードをたくさん買っていて。その中には、映画のサントラも多く、レストランやバーで選曲するときによくかけていたんです。

鶴谷

2015年だったかな、80年代映画のサントラの話で盛り上がって。みんなでレコードを持ち寄って、2016年に『80’sサントラナイト』を開いたんです。お客さんは少なかったけど、やっている3人は盛り上がって(笑)。

山崎

僕の場合はブラックミュージックやディスコミュージックなどをDJでプレイしていて。意識的にサントラを買っていたわけじゃなかったんだけど、『80’sサントラナイト』が盛り上がってから、サントラにもフォーカスしてレコードを集めるようになりました。

渡辺

80年代サントラのレコードって、とにかく安い。例えば、映画『トップガン』(1986年)や『愛と青春の旅だち』(1982年)など、大ヒット作ほどサントラもめちゃくちゃ売れたので、いまだに中古市場に出回る数も多い。

鶴谷

中古レコードの値段は安いけど、クオリティが高いんだよね。80年代は、まだ映画が娯楽の王道で、予算もふんだんにあった。そのせいか、豪華なスタジオでレコーディングしたり、名エンジニアが録音を手掛けた作品が目立つね。

山崎

そうそう、音質が抜群にいいんだよ。だから、聴き直してみると、必ず発見がある。『トップガン』をはじめ、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)など、売れているバンドや作曲家に曲を書き下ろしてもらったりして。

渡辺

もちろん、CDのみでリリースされている作品や、データのみの作品もいい作品であれば買う。レコードというソフトは大好きだけど、特にこだわっているわけではないかな。

スルーしているサントラを
よく聴くと、意外な発見が…。

鶴谷

今までダサいイメージだった80年代前半のブラックミュージックを多く収録したサントラが、いつの間にかカッコよくなっているというか、聴けるようになっていて(笑)。ギャップ・バンドやミッドナイト・スターなど、いわゆるブラックコンテンポラリー満載の『Penitentiary III 』(1987年・日本未公開)とか、視聴してみたらよくて、即買いしたよ(笑)。ジャズピアニストのロドニー・フランクリンの曲とか、バックトラックが打ち込みで、少し前なら絶対無視したけど(笑)。聴き直してみたら、最高にメロウで素晴らしいんだよね。

渡辺

シティポップ・ブーム後、新しいアーティストたちの間で80’sサウンドがリバイバルしたから、リスナーの耳のチューニングも変わった気がする。

鶴谷

それはあるかもね。『Tapeheads』(1988年)のサントラは、映画に登場する架空のバンド、スワンキーモードの劇中歌が多く収録されていて。

渡辺

スワンキーモードは、モータウンから作品を発表していたことで知られるサックス奏者のJr.ウォーカーと、サム&デイヴのサム・ムーアのバンドなんだよね。ソフトはVHSしかないから、映画自体はなかなか見られないけど。渋谷TSUTAYAのVHSコーナーをチェックするしかないか。

山崎

60年代から活躍するレジェンドが、80年代にそんな活動をしていたとは……。

鶴谷

ブラックミュージックの歴史としては、ヒップホップ全盛に入る直前だ。

渡辺

ニュー・ジャック・スイング(以下、NJS)が流行っていて(笑)。

山崎

トニー!トニー!トニー!とかさ(笑)。

鶴谷

そうそう!今、20代の若者たちがボビー・ブラウンのファーストアルバムとか聴いているみたいで。僕らが20代の頃、NJSなんて、六本木の遊び人しか聴いていなかったのに。

渡辺

90年代のダンスホールレゲエが収録された『クール・ランニング』(1993年)の値段も上がっていることで、世の中、何がリバイバルするか、わからないものです。

愛とこだわりを
詰めまくりLP化される、
90年代サントラの名作たち。

__1990年代に入るとCDが全盛になり、レコードが発売されない作品が増えるから、困りますね。

山崎

ところが、昨今のアナログ・ブームの影響からか、いきなり90年代にCDのみでリリースされていたサントラが、いきなりレコード化されるケースが増えていて。まめにチェックして買わないと、すぐに値段が高騰するから困っちゃうんだけど。

鶴谷

公開30周年記念とかならわかるんだけど、「なぜ、このタイミングで?」というリリースが多い。

山崎

2017年にいきなり『トゥルー・ロマンス』(1993年)がレコード化されたけど、どういうタイミングだったのか、いまだにわからない。

渡辺

ハンス・ジマーによるメインテーマ「You’re So Cool」は、いまだにCMソングとして使われることも多いから、探していたんだけど、オークションサイト「Discogs」の履歴では、LPはなぜか韓国盤しかなくて、買いようがなかったんですよ。

山崎

韓国はCDの普及が遅かったから、90年代前半はまだレコードが中心だったんだ。世界の流れとは逆行していたけど、僕らは羨ましかったね(笑)。

鶴谷

韓国盤はCDと同じアートワークでLPリリースされていたみたいだけど、2017年に米・Real Gone Musicでレコード化したときは、全然違うアートワークで。

渡辺

肖像権の問題もあったのか、ジャケットは劇中のキャラクター総登場のイラストで。ゲートフォールドを開くと、劇中のクリストファー・ウォーケンとデニス・ホッパーの対決シーンがイラストになっていて。

LPゲイトフォールドを開くと、映画界では「シチリアン・シーン」と呼ばれ、ハリウッド俳優学校では演技指導の教材とされているクリストファー・ウォーケンとデニス・ホッパーの名シーンがご開帳!

鶴谷

クリアヴァイナルに血飛沫が飛んでいるし(笑)。

渡辺

プレス枚数が少ないから、どうしても一枚の値段が高くなる。しかし、凝りに凝ったイラストとゲートフォールド使用、それにクリアヴァイナルなど、採算度外視の作り込みになっている。とにかく映画への愛が伝わってきて、感動しましたね。

山崎

『あの頃、ペニー・レインと』(2000年)は、ちゃんと公開20周年を記念して、レコードを一般発売。

鶴谷

公開当時、プレス用のサンプルとしてごく少量しかレコードがプレスされなかったから幻と呼ばれていた逸品で。今回発売されるレコードには、スーパー・デラックス・エディション盤があって、劇中に登場するバンド、スティルウォーターが表紙の『ローリング・ストーン』誌やチケットのレプリカも封入されている豪華な仕上がりで。

渡辺

欲しいけど、3万円近いとか……。ちょっと怖気付きました。

15歳の頃からロックジャーナリストを目指し、取材・執筆活動を始めたキャメロン・クロウ監督の自伝的作品『あの頃、ペニー・レインと』。
スーパー・デラックス・エディション盤は豪華アナログ6枚組。ザ・フーやトッド・ラングレン、レーナード・スキナードなど、1973年頃のヒット曲を収録。

山崎

『欲望の翼』(1990年)や『恋する惑星』(1994年)など、ウォン・カーウァイ監督作品のサントラが中国でリプレスされるけど、1タイトル1万円くらいするんだよね。

渡辺

さすがに手が出ないな(笑)。

鶴谷

なんでそんなに高いんだろう?

渡辺

富裕層向けじゃないですかね。

山崎

中国国内にはレコードのプレス工場があるから、国内で作りづらいということはないと思うから、高い原因は意外と富裕層狙いかもしれない。

渡辺

レコードの世界も格差社会ですかね。

買っているこっちが心配になるわ!
クレイジーな再発レーベル。

__最近は新旧のサントラがレコード化しているんですね。売れるものなんですか?

鶴谷

ワーナーやユニバーサルといったメジャースタジオの作品は、傘下のレコードレーベルから発売されていて、結構売れているんじゃないかな。しかし、最近は過去のサントラを専門的に再発している会社もあってReal Gone MusicやHollywood Records、それからマニアックなDeath Waltz Recording Companyなどもあって。正確な発売枚数などはわからないけど、よく限定2000枚とか、ロットナンバーが入っているものもあるから爆発的に売れるというものではないと思う。

山崎

サントラの再発は、映画会社から各作曲者までライセンスを取らなければならないから、すごく大変だと思うんだよね。コンピレーションみたいにいろいろなアーティストの曲を使っている場合は、作詞・作曲者や著作権所有者へ、イチから再度許諾を取らなきゃならないんだからさ。

鶴谷

CDやストリーミングで、何十年に渡ってリリースされ続けている作品だったら話は早いかもしれないけど。

渡辺

Death Waltz Recording Companyは、ジョン・カーペンター先生(監督)の『ニューヨーク1997』(1981年)や『サンゲリア』(1980年)まではわかるけど、『天使の復讐』(1981年)などのカルト作品のサントラも復刻していて。超うれしいんだけど、「これ、売れるの?」って、ちょっと心配になるくらい(笑)。超リスペクトだけど。

RSD運営陣へ。
直ちに『ライフ・アクアティック』のLPを
日本でも発売してください!

__年に一度のRECORDS STORE DAY(以下、RSD)というイベントでは、その日限定で発売されるレコードも多く、毎年盛り上がっていますよね。

渡辺

2008年から、アメリカの個人経営レコード店の組合が主になり、特別な新曲や、中古盤が高騰しているレアな旧譜を再発したりしています。

鶴谷

ロックやソウルをはじめ、サントラなど。これまでCDしか発売されていなかった作品が、RSDで初レコード化されるケースが多い。

山崎

サブスクが出始めた時期に、危機を感じた組合が各店舗の存続を危惧して始まったみたい。「その日はレコード屋さんへ行って買い物をしよう」という意向から、イベント当日店舗のみで販売(売れ残った場合は、後日にオンラインでも購入可能)という解禁日も設定して。今では世界中に普及し、日本でも盛り上がっていて、みんな当日の朝からレコード店に並んでいるんだよね。

渡辺

本当は並びたくないんだけど….…。2019年のRSDで『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)のサントラが再発され、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズがディレクションを担当している作品だから、大ファンとしてはめちゃくちゃ欲しいわけ。もちろん、並んだけど、どう見てもテンバイヤー(転売屋)か、お洒落だから欲しいという人も並んじゃっていて。目の前で売り切れた、ほろ苦い過去があるわけです。

__本気で欲しいのが伝わります。それは悔しかったでしょう。

渡辺

いや、いまだに。目の前で最後の一枚を買った男性の顔、忘れていませんから……。それ以来、RSDは無視していたんですが……。

鶴谷

今年はなんと『ライフ・アクアティック』(2004年)がリリースされるというアナウンスがあって。今までCDしか発売されていなかったから、思わず並んだよね。

ウェス・アンダーソン監督の名作!ディーヴォのマーク・マザーズボーと、セウ・ジョルジによるデヴィッド・ボウイのカバーが大半を占めるサントラ。どうかしている選曲だけど、映画にはぴったりハマっているのが見事。あと、RSD運営陣へ。今回同タイトルが日本に輸入されなかった理由と、再度入ってくる可能性があるのかアナウンスしてください!

__CDジャケットを見る限り、レコードになったら、かなりかわいいですね。

渡辺

内容も素晴らしくて、セウ・ジョルジのデヴィッド・ボウイのカバーとか最高なわけですよ。

__ライバルが多そうですね?

山崎

ただ、今年は同じ日に『エターナル・サンシャイン』(2004年)も出るということで。

ミシェル・ゴンドリー監督『エターナル・サンシャイン』(2004年)のLP。
レコード盤はケイト・ウィンスレット演じるクレメンタインに寄せた赤ピンクなカラーヴァイナル。

__それは盛り上がりますねー!お洒落アイテムだ!

渡辺

だから、みんな『エターナル』目当てだろうと踏んで。

鶴谷

いざ入店して、コーナーに走っていったら『ライフ・アクアティック』は発売延期かなにかで、入荷していなくて……。

渡辺

泣きましたねぇ……。真夏の朝、9時から整理券を配るから並んだのに、一体なんだったんだ!

鶴谷

これはどうしても買っておかなきゃならないものが出たなら、並ぶしかないもんね(笑)。

渡辺

鶴さんは別の街のレコード店に並んでいて、連絡を取り合ったんだけど、両方とも入荷してないんだよね。

山崎

僕は当日仕事で並べなかったけど、サントラ・ブラザース3人のグループメールに「え?渋谷にはない?」、「(ディスクユニオンの)シネマ館は12時オープンだから行ってみる!」とか、おびただしいメッセージが埋まっていて(笑)。

渡辺

ちなみにRSDでは11月に『Black Friday 2021』という催しがあって、『ライフ・アクアティック』のリリース予定が発表されたんだけど、日本への入荷がなかったみたい…来年こそは出てくれるといいね。

__とても2021年の会話とは思えませんね(笑)。

一同

確かに(笑)。

渡辺

きっと来年も掘り出し物があれば、並ぶんだろうなぁ……。

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