Listen

Listen

聴く

FPM田中知之が京都・木屋町で手がけたミュージックラウンジ。サウンドフォレスト〈FUL〉

京都・木屋町にまったく新しい形のミュージックラウンジが出現した。ラウンジを森に見立て、静謐で心地よいサウンドを聴かせるとびきりのスペースだ。お店を手がけたFPM田中知之さんにそのコンセプトを聞いた。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Akihiro Furuya

FPMの田中知之さんがサウンドフォレストを標榜するミュージックラウンジ〈FUL〉を手がけた。京都出身である田中さんが地元から想起したこのミュージックラウンジ、いわゆるミュージックバーの定番ともいえるアイコンが存在しない。大口径のスピーカーも、壁一面に居並ぶレコードもターンテーブルもないものの、森の彷徨い込んだように聴こえる心地よい音が訪れる人をもてなしてくれる。

「ミュージックバー的なスペースをつくってくださいという依頼から始まったのですけど、結果的にはいわゆるリスニングバー的なアイコンをすべて排除することになってしまいました(笑)。新しい形で音楽を楽しめる空間を提供できないだろうかとイメージをふくらませたら、「サウンドフォレスト」というキーワードに発展したのです。

このお店がある京都の木屋町というところは高瀬川を通じて木材が運ばれ、元々は材木屋さんがたくさんあった土地です。京都の持つスピリチュアルな側面を重ねて、鎮守の森みたいなスペースができないかと考えたのです。

その鎮守の森で流す音楽は一言でいうならば“静謐な音楽”です。アンビエント、アコースティック、チルアウト、ジャズ、クラシックとオールジャンルではありますが、静かな音楽が森から降り注ぐみたいな環境で聴いてもらうということを中心としました。いわゆる〈ドルビー・アトモス〉などによる空間オーディオの文脈とは違います。

バリにあるセレブリティや音楽好きがこぞって集まるビーチラウンジ、〈POTATO HEAD〉でも使っている、〈1 SOUND〉というイカしたオーディオブランドのスピーカー10基を天井に配置することで、森から降り注ぐような環境をつくり出しました。

〈1 SOUND〉のスピーカーは非常に解像度が高くて、周波数帯の整理が行き届いていて、音圧やダイナミズムを感じるにもかかわらず、会話も聞き取りやすい。声を張るでもなく、耳を澄ますこともなく、ある程度の距離を取って会話ができる、このラウンジにはうってつけのスピーカーでした。

〈1 SOUND〉のスピーカーを10基天井に配備することで、心地よく降り注ぐサウンドスケープをつくり出してくれる。

いまのところプレイリストはすべて僕が作っています。静謐をキーワードにかなりこだわって、慎重にセレクトしています。選曲家としての意地もあるので、マニアックなだけでなく、アコースティックのカバーや、みなさんが知っているところの意外性、Shazamしたときの驚きなども潜ませていますよ。音源はすべてデータ。出口はこだわるのですが、入口はある程度のものでも鳴ってしまうというところを目指しました。ですから、壁に居並ぶレコードもありません。これは非常に現代的な考え方かなと思っています。

ゆくゆくはいろいろなセレクターが参加してくれればとは考えています。これはフラッシュアイデアなのですが、たとえば「under 100」というBPM100以下の曲しかかけてはいけないというルールを設けたイベントなど、クラブともミュージックバーともバッティングしない謎の存在でいられたらいいなと思っています(笑)」