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着る

栗野宏文、好きな服との付き合い方。ジャケットを「さぼす」、白モノ以外は残り湯で洗う

好きな服をずっと大切に着る。古くなるのはむしろ歓迎で、ただし清潔さは損なわないように。服と靴と人と時間。そのあるべき付き合い方とは。教えてもらうなら、やはりこのお2人。

photo: Shunya Arai / illustration: Kazutaka Tsugaoka / text: Satoshi Taguchi / edit: Ryoko Iino, Tamio Ogasawara / styling: Shinichi Sakagami / hair: Atsushi Momiyama

きれいに着る

これはもう、癖ですね。例えば短いランチをとって、そのパン屋さんの紙ナプキンで革靴をササッと拭く。
20代の前半くらいからしていることで。なぜそうなったのか、理由は特定できないのですが、あるいは母親の影響かもしれません。

すごく小柄な人で、稀にサイズがちょうどいい靴を見つけると、嬉しそうに手に入れて、すごく大事にしていました。そういうのを見て育ったので。

自分が社会人になり、革靴を履くようになって、当然、ブラシとクリームを揃えました。それが特別なこととは思わなかったですね。何かのきっかけで目覚めたわけでもない。ごくごく自然にそういうことを始めたら、半ば習慣化していった感じでしょうか……。

たぶん、靴でも服でも身ぎれいにするには習慣化するのが一番いいんです。私自身、几帳面でも器用でもないので、意識しすぎて変にこだわったり、気負って時間をかけたりしてもきっと続けられない。それだと意味がないですから。

つがおか一孝 イラスト
話題に上った革靴を大事にする癖は、出張先のパリでも目撃された。

ブラシとシューツリー、
シンプルに毎日やること。

例えば、普段の革靴のケアはブラッシングだけ。あとは2〜3回履くごとに、クリームやワックスで磨くくらい。服でもそうですが、埃や汚れを長い時間そこにいさせないのが大事なので。クリームかワックスかは、靴の個性や気分で使い分けます。

今日履いているのは〈ジョン ロブ〉ですが、このミュージアムカーフはすごく繊細な革で。
こういうタイプの革ならクリームで自然な感じに手入れしてあげるといい。柔肌の人に厚化粧したら、肌荒れしちゃいますからね(笑)。もちろんワックスの厚化粧が向いている革もある。ガラスレザーのローファーとかね。

あとはシューツリー。家に帰って靴を脱いだら、すぐに入れて湿気を吸わせます。それで1晩置いて、翌朝にはそれを抜いてからしまいます。入れっぱなしだと、湿気が靴に戻ってしまうので。

そうそう、新品の靴をおろす時、僕はまず2回磨きます。そうすると革に薄い皮膜ができるので。これは儀式みたいに必ずやりますね。
一方でシワやキズが自然に入るのも好きで。長持ちはさせたいけど、原形をとどめたいわけではないんです。年季の入った靴って、チャーミングですから。

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新品の靴は2度磨き。小さなキズも日常のブラッシングで落ちるように。

ジャケットを「さぼす」。
白モノ以外は残り湯で洗う。

洋服でも習慣にしていることはあります。「さぼす」って、ご存じですか?着た服をすぐにしまわず、部屋で乾かしておくんです。人間から出る分泌物や湿気を、1日かけて服は吸っていますから。
私の場合は、家に帰るとジャケットやパンツは、コートハンガーで1晩干します。しまうのはこれも次の日の朝ですね。

あとはブラッシングも。ジャケットの襟と肩周り、パンツの裾。特に天気が悪かった日は、家に帰ってから絶対にやった方がいい。
水しぶきや泥なんかを、気づかないうちに拾っているので、その日に払っておく。1〜2分でササッとかければ済むことですが、後が違います。

洗濯も大事ですね。水で洗っても構わなそうなものは、すべて家でやります。スーツとかジャケットはクリーニングに出しますが、ウールのセーターとか、シルクでも過度にデリケートではないものは自分で洗いますね。

ドライクリーニングは環境に対する負荷が大きいし、どうしても生地が傷みやすいので。
例えばコットンは、雨風に晒されて育った綿花から服になりますよね。彼らにとって、水はすでに馴染んだもの。羊の毛もそうですが、溶剤ではなく水の方が当然ストレスも少ないですから。

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毎日さぼすのも習慣。パンツは上下逆さにすると、自然と伸びていく。

家では干して、たたんで、しまうのは、私の場合が多いんです。家族の服もすべて、お店みたいにキレイにたたみますよ(笑)。決めているのは、洗いはお風呂の残り湯を。そして干す時は色分けしてグラデーションに(笑)。

そこに意味はないけど、眺めがいいし。もしかすると、ものを大事にするということにも繋がっているのかもしれません。1着ずつ干しながら、その存在を脳に刻んでいくわけですから。

可視化して法則化するのは大事です。洗濯機から取り出して、まずは分類する。シャツ、下着、靴下、みたいに。
早く干せればいいからって、整理もせず、ピンピンとキレイにシワものばさず、ピンチハンガーがナナメになった状態で干しても、均等に乾かないし、変なシワが入ってしまったりしてしまう。

私はルールとかは好きじゃないし、道具や洗剤にこだわったりもしていない。でも、丁寧ではあると思います。それはきっと、物事をわかるようにしていくということですよね。取り込んで、たたんで、しまうまでを考えたら、可視化して法則化した方が、速いし合理的です。

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洗濯干しはグラデーションで。風で飛んだとしてもすぐにわかる?!

自らちゃんと手をかける。
深まる愛、すり切れた襟。

洋服はセカンドスキンというくらい、その人のいろんなことが出てきます。靴もね。それだけに、大事にしてあげたい。つまり自分でちゃんと手をかけてあげるってことですよね。だから出張にも洋服ブラシと簡単な靴磨きセットは必ず持っていきます。

その時、大事にしなかったせいで、服をかわいそうな目に遭わせてしまったら、嫌じゃないですか。最近は出張先でシャツや下着を毎日洗うようにしているので、ハンガーも持っていくようになりました。

家でアイロンをかけたり、靴を磨いたりすれば、その構造もよりわかってきて、さらに愛情は深まっていく。そうして、気づけばシャツやネクタイが20年選手になっていたりする。

すり切れてきたりしても、むしろそれが好きなんです。味が出てきたなぁって。一種のスノビズムかも。ヨーロッパでは洒落た人がキザなこととしてやります。私はただ捨てられないだけだったりするんですけど(笑)。

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シャツの襟や部分汚れは《エネロクリーン》を。出張にも欠かさず携帯。