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新時代の作り手を訪ねて。いかご職人・須浪隆貴

作り手にとって20〜30代は成長期と成熟期の狭間であり、次々と面白い作品が生まれる時期でもある。そんな注目の若手作家を、識者に推薦してもらった。これからの時代を担うホープたちが作り出す唯一無二の日用品とは?

Photo: Masako Nakagawa / Text: Wakako Miyake

祖母から引き継いだ
現代の民芸、いかご

築120年の納屋を手入れした工房には所狭しとものが並ぶ。須浪亨商店の5代目として、イグサのカゴ、いかご作りにいそしむ須浪隆貴さんは、好きなものが徹底している。

子供の頃から大好きだったというドラえもん。その青をイメージした壁一面には、カゴ作りの参考にもするという、古い民具が並ぶ。作業をする正面には、ポケモンのキャラクターフィギュアがコレクションされ、ガラスケースに入り切らないものも、そこら中に散らばっている。その様子は、博物館のようであり、子供のおもちゃ箱のようでもある。

「ドラえもんは形がかわいくて、物心ついた頃からずっと好き。ゲームもハマるとそればっかりやっているし、一度好きになると、飽きることがないんです」

須浪隆貴 いかご作品
右からびんかご、鍋敷き、卵をパッケージする、卵つと(木卵)。

その資質は、生業としたいかご作りにも生かされている。編み始めたのは、小学生の頃。
「5代目と名乗っていますが、家業はもともと花ござを作っていて、いかごを始めたのは、ばあちゃんなんです。いつも隣で遊んでいたので、いつの間にか覚えて、小学生のときにはすでに編めるようになっていました。実際にプロの仕事としてスタートしたのは21歳頃からですが、ずっと飽きない。同じものを繰り返し作るのも苦にならないですね」

畳表には使えない短いイグサを仕入れ、縄をない、織り機と手で編んで仕上げる。手伝いの人がいるとはいえ、ほぼ一人きりの仕事である。

「全然、孤独は感じません。ばあちゃんがやめるというから後を継いだ形だけど、性に合っていました」定番のバッグ「いかご」や、ビンを入れる「びんかご」などは、祖母も作っていた形だが、そこに少しずつ改良も加えている。

「今の生活にストレスのないサイズ感と、バランスの良さはすごく考えています。ほかにも丸みのある“スイカかご”や鍋敷きなど僕がデザインしたものもいろいろあり、ものによって編み方を変えています。本を見ることもあるし、世界の古いカゴを集めて解体したり、縄になっていたらほどいたりしながら、構造を研究することも。その資料となるカゴも、もともと好きだったこともあり、やたら増えてしまいました」

そういったカゴやフィギュアのみならず、ガラス、甕、民芸人形など数え切れないほどの“好き”に溢れた工房。そこで生まれる製品には、使い勝手の良さだけではない、須浪さんだけが持つ、ユーモアや喜びといった幸福な感情も詰まっている。

須浪隆貴 作業風景
いかごの側面となる部分を織り機で織り、ブドウ用ハサミでカット。

素直に興味を追究する姿勢に
好ましさを感じるもの作り

推薦者・中原慎一郎

工房に訪問できたのは最近のこと。「気づいたら編めるようになっていました」という須浪くんの素直な話し方がとても印象的でした。変に作家性を上げようとしてなくて、あくまでその工程や素材に興味の矛先があって素晴らしいです。京都の骨董市などで集めた様々な民具を彼なりに検証していてそれが彼の編み方に良い味つけとなっていて好感が持てます。僕も一つ使わせてもらっていますが、古本の買い出しには欠かせません。