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歴史と技術を垣間見る。京都で感じる手仕事の魅力

工芸品に料理、建築といった伝統が数多く息づく京都で手仕事の魅力を体感しよう。

photo: Yoshiro Masuda, Junya Oba,Yosuke Tanaka, Yoshiko Watanabe, / text: bankto, Ado Ishino, Yusuke Nakamura, Mako Yamato,

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京都伝統産業ミュージアム(岡崎)

“生きた工芸”と作り手を網羅する、
とっておきのミュージアムを発見。

2020年にリニューアルした〈京都伝統産業ミュージアム〉。神仏具から染織品、諸工芸品まで、京都市の伝統産業74品目すべてが展示され、まさに京都工芸への玄関口だ。また、かつて京都の庶民に愛用されていた漆器「アサギ椀」を復活させるプロジェクトなども支援し、ミュージアムで展示販売も。

「伝統工芸は過去のものだと思われがちですが、現代にも“生きた工芸”があることを知ってもらえたら」とディレクターの山崎伸吾さん。その思いから約40社と提携して工房訪問の懸け橋となる事業も行っている。

京都 便利堂本店(丸太町)

写真における世界最古の印刷技法
「コロタイプ」を便利堂で見学する。

コロタイプとは、約170年前にフランスで発明された写真の古典印刷技法のこと。当時の写真プリントは画像の保存性が低く、経年とともに褪色・変色するのが欠点だった。顔料を用いたコロタイプの確立によって、写真プリントは保存性が確保されただけでなく、顔料による精緻な印刷技法として発展した。

便利堂〉は1905年にコロタイプ工房を開設以来国宝などの文化財の複製作りを行ってきた老舗。各工程に熟練の職人さんがおり、当然ながらすべてが手作業。効率だけでは測れない職人技の魅力に引き込まれ、国内外の著名写真家が作品を持ち込むという。

林龍昇堂(三条堀川)

日本古来の香りを
今こそ嗜む。

世相を反映してルームフレグランスの売れ行きが上昇中。そこでおすすめしたいのが和の香り。天保5(1834)年創業、187年の歴史を持つ専門店〈林龍昇堂〉には天然由来の貴重な香木によるお線香や焼香などがずらりと。香りは舌と同じく、甘・辛・酸などの五味で“聞く”もの、だが慣れないうちは店頭で好みの相談も。

6代目の林慶治郎さんいわく、仏事だけでなく「朝はビャクダンで脳を活性化させ、夜は沈香で気持ちを落ち着かせる。日常生活でもおすすめです」。

となりの村田(岡崎)

村上隆がオーナーの器ギャラリーで、
陶芸家・村田森の世界に浸る。

京都郊外で作陶する村田森さんは、古物の趣を漂わせる染め付けで人気を誇る。料理を引き立てる器に惚れ込み、愛用する料理人も数多い。3年の充電期間を経て、北大路魯山人へのリスペクトで共感した村上隆と、妻の扶佐子さんと共に店を構えたのは2020年6月のこと。数ヵ月に数日、不定期に開店し、青磁と白磁など毎回替わる作品にファンは心をくすぐられっぱなしだ。

「自分自身の病気やコロナ禍もあって、料理を作ったり花を生けたりするようになった。少なからず作品への影響も」と村田さん。作り手のさらなる進化を目の当たりにする拠点がここに誕生した。

久山染工(伏見)

手捺染の職人が
デザイナーとしてデビューした?

着物の友禅に端を発する、長い歴史がある京都の染色は、伝統をベースに現在さまざまな発展を遂げている。伏見区の〈久山染工〉は、手捺染の工場(一般の見学は不可)。職人技で一枚一枚を手作業で仕上げるからこそ自由度が高く、古着のようなダメージや色褪せも、染めで表現できる。オリジナルの生地見本は数を把握できないほどで、その表現力の奥深さ、幅広さは素人目にも驚きだ。誰もが知る世界のトップメゾンからオファーが絶えないことも納得できる。

ファッションブランド〈9M〉染色作業
「生地の染色や加工の仕事の傍らこなす」〈9M〉のデザイナーの吉田力さん。生地選びから染料の調合、加工まで担当する。シルクスクリーンに似ているが、もっと高度に磨き抜かれた職人技が光る。

さらに面白いのは、ここの職人である吉田力さんが、技術を継承しながら自ら、自社ブランド〈9M〉を立ち上げたこと。すでに6シーズン目を迎えるが、テキスタイル、デザイン、ルック作りに、卸しや自社ECまでを担う。ルックを見ればわかるが、アウトプットはモードなストリートファッション。一見、友禅から遠く離れているようだが、一点ずつを見ていけば、そこに歴史と技術が確かに受け継がれているのだ。

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