食から始まった、食いしん坊ジオトリップ。
旅の始まりは〈Entô〉から
食いしん坊にとって、〈Entô〉のディナーはジオトリップへの格好の入口だ。料理に使われる食材の多くは海士町のもの。岩牡蠣(いわがき)や隠岐牛をはじめ、野菜や米、塩などの調味料も地元産だ。そしてそれらをサーブするスタッフが、旅のナビゲーターとなる。
「岩牡蠣のソテーです。岩牡蠣は長い時間をかけて成長するので、真牡蠣よりも大きくてジューシー。来年には私が育てた牡蠣を召し上がっていただけると思いますので、ぜひ」
もぐもぐもぐ……、エッ⁉実は〈Entô〉で働くスタッフの多くは、別の仕事を掛け持ちするマルチワーカー。水産業や農家、林業組合などでも働いているそう。自然に寄り添う島の暮らしは、時季によって産業ごとの繁忙期が異なり、安定した雇用が難しい。そこで海士町複業協同組合を通して色々な仕事を組み合わせることで、みんなが無理なく、楽しく働けるよう、島を挙げて仕組み作りに取り組んできたのだ。
メインディッシュの隠岐牛のステーキでは力強い肉の味に感極まり、「どんなふうに育っているんだろう?」と興味が湧く。するとすかさず、「車で30分のところで放牧が見られますよ」と教えてくれる。さらに肉に添えられた塩が、島の海水を汲み上げて丹念に釜焚き・天日干しして作られていること、伝統調味料である「小醤油味噌」の成り立ちや、なぜ海士町で自給率100%を超える稲作ができるのかなど、2時間のディナーで、たくさんのストーリーを聞かせてもらった。
翌日、岩牡蠣を養殖する現場を訪ねると、昨日のスタッフが長靴姿で迎えてくれた。「海士町の岩牡蠣が大きく育つのは、栄養豊富な山からの伏流水が海に流れ込んでいるから。すぐそこに湧水スポットがあるので、ぜひ飲んでみてください」と言う。「隠岐で湧水が豊富なのは海士町だけ。だから安定した稲作ができる。お米農家さんの話も面白いと思いますよ」と、新しいヒントまでくれた。
「湧水はもちろんだけど、平地がないと米作りはできないからね」。稲刈り真っ最中の田んぼの足元を指差し、米農家さんがニヤリとする。かつて2つの島に分かれていた海士町。火山の噴火によって流れ出た溶岩が島の間を埋め、この平地を作ったという。田んぼにもジオの秘密が隠されていたなんて!加えて、平坦地が少なく、土地が肥沃でない隠岐の島々では、牛馬の放牧と畑作を4年周期で輪転させる「牧畑(まきはた)」という独特な農法が行われていたことも話してくれた。
菱浦港のレストラン〈船渡来流亭〉
“幻の肉”をリーズナブルに味わえる〈隠岐牛店〉
その後、〈Entô〉で教えてもらった隠岐牛の放牧場へ足を運ぶと、急峻(きゅうしゅん)な崖もある牧草地で、のんびりと草をはむ牛たちの姿があった。これまでなら「牛だね〜」なんて写真を撮るだけで通りすぎてきた風景。その中に厳しい暮らしの中で知恵を絞り、生活をつないできた人々の姿が浮かぶ。そしてそれが、昨晩食べ、感極まったあの味を作ってきたのだということも。
縁結びスポット、明屋海岸
旅の最後に、島の名所だという明屋(あきや)海岸に立ち寄った。約280万年前の噴火によってできた屏風岩があり、中でも波の浸食が岩を削って作ったハート形の穴は縁結びスポットとして人気らしい。そこには確かに見事なハートの穴があった。でも、頭の中を駆け巡ったのは御利益ではなく、どれくらいの年月が、どのようにしてこの風景を作ったのかという無数の「?」だった。
次、隠岐に来る時はその謎を解くべく、あそこにも行ってみよう、あの人に話を聞いてみよう。今と過去、未来がつながって、そこからまた新しいジオトリップが始まる。そのワクワク感を胸いっぱいに詰め込んで、帰りのフェリーに飛び乗った。
パンも製造するお土産と手仕事の店〈つなかけ〉
そのほかにも訪れたいスポットが盛りだくさん
隠岐諸島でのモデルプラン
MODEL PLAN
〈1日目〉
09:30 隠岐空港着。
12:05 西郷港へ移動し、フェリー乗船。
13:15 菱浦港着。レンタカーを借りる。
13:30 〈隠岐牛店〉でランチ。
14:30 島をドライブ。
16:00 〈Entô〉にチェックイン後、夕食。
20:30 庭で焚き火&星空観察。
〈2日目〉
07:00 朝食後、チェックアウト。
09:00 岩牡蠣養殖の現場を見学。
10:30 〈つなかけ〉で買い物。
11:00 〈船渡来流亭〉で寒シマメ丼を食す。
12:30 〈隠岐潮風ファーム〉で牛を見る。
13:30 明屋海岸を散歩。
15:15 菱浦港からフェリー乗船。
17:55 松江市の七類港着。タクシーで米子空港へ移動。
TRAVEL MAP
飛行機の場合は伊丹空港か出雲空港から隠岐空港へ。西郷港から海士町の菱浦港までフェリーで1時間10分。島根県松江市の七類港(しちるいこう)と鳥取県境港市の境港から隠岐の島町や海士町行きのフェリーもある。