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島根・隠岐諸島。一皿から始まる、地球46億年のジオトリップ〜前編〜

ユネスコ世界ジオパークに認定されている隠岐諸島は、地球の記憶が刻まれた場所。それは食もしかり。一口食べると、そこには太古につながるトンネルが⁉食から地球の壮大な歴史を辿る、壮大で、おいしい旅へ。

photo: Kasane Nogawa / text: Yuriko Kobayashi

隠岐諸島・地球の記憶を刻む
ジオパークへ!

東京から飛行機とフェリーを乗り継ぐこと約6時間。「もうすぐ港に到着します」というアナウンスで目を覚ましカーテンを開ける。海からニョキニョキと育ったような奇妙な形の岩、褐色の岩壁を持つ無人島。それらを縫うようにして船は進む。荒々しく野性味ある島々の風景は人を少し緊張させる。こんな冒険的な気持ちを持ったのは、いつぶりだろう。

島根 隠岐諸島〈Ento〉客室からの長め
〈Entô〉の客室からは島々をつなぐ船の姿が。刻々と変わる海や空の風景を静かに見ているだけでも、飽きることがない。

島根県・隠岐諸島は大小180余りの島々からなる群島だ。人が住む島は4つあり、最も大きな島は隠岐空港のある島後島(どうごとう)。一方、西ノ島、中ノ島、知夫里島(ちぶりじま)の小さな3島は「島前(どうぜん)」と呼ばれる。約600万年前、海の底にあった隠岐は地殻変動によって徐々に隆起し、大規模な火山活動によって島前と島後の島が形成された。

2万年前、氷河時代の極寒期に入ると海面の低下によって島根半島と地続きになるが、その後の温暖化で海面が上昇、再び離島となった。隠岐諸島は地球の記憶がそのまま刻まれたタイムカプセルのような島々。2013年にはユネスコ世界ジオパークに認定され、大地の物語を今に伝えていこうとしている。

ジオトリップへの入口となるのが2021年7月に中ノ島・海士町(あまちょう)に誕生した〈Entô〉。隠岐ユネスコ世界ジオパークの“泊まれる拠点施設”として、宿泊機能とジオパークの魅力を体験できる機能をシームレスに持たせた日本初の“ジオ・ホテル”だ。

新館〈NEST〉1階には地球と隠岐諸島の成り立ちや、島前三島の動植物、地形、人の営みを解説する展示室があり、さらに海を見渡す「ジオラウンジ」には世界各地の生物の化石がアート作品のように点在する。

「自由に触ってみてください」と促されて指でなぞったのは、約1億5000万年前に生きていた恐竜の骨の化石。目前に迫る海の風景も相まって、脳内には太古の地球、彼らが闊歩(かっぽ)していた大地の風景が立ち上がってくる。薄暗い博物館では、こんな体験は絶対にできない。

フェリーから続くワクワクとした冒険心は、客室に入ったときに頂点に達した。前面ガラス張りの部屋には島前カルデラが迫り、海に浮かんでいるような錯覚に陥る。それを望むように置かれたベッドとソファ、それ以外は何もない。それこそが〈Entô〉が掲げるコンセプト「オネスト&シームレス」の真骨頂。テレビも音楽も何もない。

静けさの中に身を置き、刻々と表情を変える自然のありようを見て、感じる。そうして時間を過ごしていると、いつしか自分と自然との境界が曖昧になり、時間も空間も超えて、その一部になるような瞬間が訪れる。

ジオトリップとは、ただ景色を見て、地形やその成り立ちについて学ぶことじゃない。全身をその自然に浸し、まっさらな頭、自分に還り、自由に感じることなのかもしれない。だとしたら、そんなワクワクすることはない。ガイドブックを置き、眼前に広がる風景や食べたもの、出会った人々から空想してみる。なぜそれらは今、ここにあるのだろう。その小さな「?」から、地球の長い長い軌跡を辿る旅が始まるのだから。

島根 隠岐諸島〈Ento〉シェフがディナーを作る様子
ディナーではシェフが目の前で料理を仕上げる。香りも音も楽しんで。
島根 隠岐諸島〈Ento〉ディナー
島前カルデラを望むダイニング。ディナーはシェフがオープンキッチンで作る鉄板焼き。この日のメインは隠岐牛と海士町産の野菜ソテー。伝統調味料「小醤油味噌」を添えて。