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伊賀大介×速水健朗が語る、“渋谷映画”。再開発が進む街の変貌を記録した映画たち

現在、渋谷駅周辺は大規模な再開発の真っただ中にあり、かつての風景から激変。映画フリークであるスタイリストの伊賀大介さんとライターの速水健朗さんが、変貌を重ねる渋谷の街の風景を映画の中で大検証!

photo: Koh Akazawa / text: Chisa Nishinoiri

映画で紐解く“渋谷”

伊賀大介

渋谷で映画、というと記憶に残っているのが1998年の夏、渋谷パルコで『ラブ&ポップ』を観たこと。撮影は97年だと思うんです。その年の夏に、渋谷パンテオンで『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』を観ていたら突然、実写の特報が入り込んできて、なんじゃこりゃ!ってすごく驚いたもん。

速水健朗

渋谷の劇場で観たんですね、すごい。村上龍原作、庵野秀明監督の初めての本格的な実写映画ですよね。あれは完璧な“渋谷映画”。

伊賀

センター街、駅前のスクランブル交差点、QFRONTはまだ建設中だった。暗渠になる前の渋谷川を、主役の女子高生4人がひたすら歩くラストシーンは有名。

速水

スクランブル交差点が見下ろせる駅前のビルの最上階に〈シャワーズ〉という喫茶店があって。劇中にも登場するんだけど、村上龍が小説で女子高生に取材をする時に実際使っていた場所。この店も気づいたらなくなっていた。たしか10年前くらいまではあったと思う。

伊賀

昔の映画を観ていると、当時の看板とか通行人、そういうディテールがすごく面白いんですよね。

速水

80年代、90年代ってまだ歴史化されていないうえに、ネットにも情報がない空白期ですよね。意外と資料がない。自分たちも、ついこの間みたいな感覚でいるけど、覚えているようで結構忘れている。

伊賀

特に渋谷ほどスクラップ&ビルドな街もないですからね。気づくといろんなものがなくなっている。

速水

だからこの時代の歴史的資料としても映画はとても有効だと思う。

伊賀

80年代でいうと84年公開の『チ・ン・ピ・ラ』は外せませんね。この時代の渋谷の記憶がほぼ全部入っていますし、非常に素晴らしい映画ですよ。

速水

僕も川島透監督、大好きです。『チ・ン・ピ・ラ』はそれまでの実録路線や任侠路線とはまったく違うヤクザ映画。自分たちは組にも属さないし、どこにも根づかないんだ、というような都会的な浮遊感があった。

伊賀

デラシネ感、みたいなね。

速水

柴田恭兵とジョニー大倉が着ているオーバーサイズの柄シャツは、いまは一周してありなスタイルになっている。ファッショナブルなチンピラ。ラストは上下白のスーツ。

伊賀

リネンみたいな感じなんですよね。素材感もふわっとしていて、服でも自由さを表している。

速水

ちなみに『あぶない刑事』の“ユージ”のキャラクターはこの時すでに生まれているよね。キザでよく走って、女に弱い。

伊賀

あと、ピンチの時ほどジョークを言う、みたいな。

速水

映画のクライマックスで銃撃戦が繰り広げられるんですが、それが東急百貨店本店の入口。エキストラを使わず、実際にそこにいたお客さんに伝えないまま一発本番のゲリラ撮影。お客さんは、あまりに突然のことで驚くことすらできてない。

伊賀

そういうことが起こるから、ロケは面白い。その極北にあるのが『太陽を盗んだ男』ですよね。東京中で暴れ回るんだけど撮影は何の許可も取ってないという。首都高でのカーチェイスもゲリラ撮影なんて、いまでは考えられない。

速水

『チ・ン・ピ・ラ』が舞台に渋谷を選んだのは、おそらくここが若者の街で、ヤクザになりきれない彼らの象徴のような場所だったから。つまりこの頃、渋谷はすでに若者の街だった。ならば、渋谷はいつから“若者の街”になったのかと思うんです。少し時代を遡ると、71年に日活がロマンポルノに移行する直前、最後の日活ニューアクションに『不良少女魔子』という作品がある。

伊賀

DVDのジャケ写もすごくかっこいいですね。主演女優がクラウディア・カルディナーレみたいな、日本人離れした感じ。

速水

パルコができて、駅前の交差点がスクランブル方式になるのが73年なので、その少し前の渋谷を舞台にしたなかなか貴重な作品。この映画でも渋谷が若者の街だった要素が窺えます。伊賀さんはほかにも思い浮かぶ渋谷映画ありますか?

伊賀

時代はまた戻るんですが、99年の『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』。内容的には全然渋谷と関係ないんですが、樋口真嗣監督の特撮が尋常じゃなくて、看板とかの再現が完璧なんです。まず〈ケンウッド〉の看板。黄色い逆三角形が点滅するやつ。それを観ただけで懐かしくて泣きそうになる。

〈レイク〉があって、〈アコム〉はまだ「むじんくん」押し。センター街も完璧に再現していましたね。そこにギャオスが落ちてきて、渋谷周辺は壊滅。そのシーンは7分ほどだけど、映るものすべてが懐かしい。

速水

〈武富士〉も駅前に大きい看板があったけど、消費者金融の看板って、80年代後半から90年代くらいまでの渋谷のアイコンでしたよね。駅前から五島プラネタリウムがなくなるような大きなランドスケープ的な変化よりも、むじんくん、アイフルの看板がなくなった方が実はビジュアルにおけるインパクトは大きい。そういう意味では、駅前に〈三千里薬品〉があるだけでも渋谷とわかる。

伊賀

デジタル化はされているけれど、あのネオンと甘栗の匂いだけは一生記憶に残る。僕が細田守監督と『バケモノの子』('15)をやった時も、デジタル化された〈三千里薬品〉がきっちりアニメに表現されてた。

速水

あの作品もまさに渋谷映画!

伊賀

役所広司さんが演じた熊徹の家があるのが、実は〈麗郷〉のあたりというイメージなんです。

速水

あの界隈はめちゃくちゃエキゾティックで面白いですよね。

伊賀

そういえば、映画じゃないんですが、欅坂46の「サイレントマジョリティー」(2016年)のMVを観た時、あれは都市のドキュメンタリーとして素晴らしいなと思ったんです。東横線渋谷駅の線路跡地の工事現場で撮影されているんですよ。

速水

知らなかった!

伊賀

クレーンとかが背景にガンガンあるんですが、いまはクレーンがないどころか、その場所に〈渋谷ストリーム〉が立ってる。かなり面白い映像だから、このまま映画にすればいいのに、と思ったくらい。

速水

そう考えると、『ラブ&ポップ』の時代から渋谷の街はずっと工事し続けてますよね。そしてその姿を映像だけが残している。

伊賀

それこそ、『ラブ&ポップ』みたいにすごく面白い話になると思うんですよね。

速水

『ラブ&ポップ2020』、いいですね!あれから23年後の渋谷を記録したいですね。

ライター、編集者・速水健朗、スタイリスト・伊賀大介