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レトロな温泉街・渋温泉、湯田中温泉に若い力が台頭。変わりつつある今こそ、行きどき

温泉街は、湯処、酒処。ひと風呂もふた風呂も浴びて外湯巡りを楽しみ、体の芯から温まったら、今度は酒場ホッピングの時間!居酒屋さんから角打ち、ナチュラルワインバー、フレンチ、イタリアン、ブルーパブ、寿司にスナックまで。ハシゴするもよし、ちょっと腰を落ち着けて飲むもよし。今、面白いのは、温泉のある街の外湯・酒場巡り。

photo: Yoichi Nagano / text: Michiko P. Watanabe

ノスタルジックな温泉街がグルメ街に変わる日も近い⁉

渋温泉を知ったのは、世界中のおいしいものを知る知人のSNSだった。〈渋温泉食堂 ゴンキ〉の料理にモーレツに心惹かれたのである。「行きたいな」が「もしや、呼ばれてる⁉」に高じて、いそいそと北陸新幹線に乗り込んだ。牛に引かれて善光寺参りならぬ、〈ゴンキ〉に引かれて渋温泉巡りである。温泉とフレンチという願ってもない夢の組み合わせに心が躍る。

温泉街に入って驚いた。え、映画のセットですか。木造の建物が狭い通りの両側に連なるザ・温泉街。通りは車1台がギリギリ通れる狭さ。よくぞ残った、このしっとりした風情。旅情をかき立てられる。

長野・渋温泉の町並み

黄昏時ともなれば、湯治客に交じって、スノーモンキー目当てに世界中からやってきた外国人客が慣れない浴衣姿に身を包み、下駄の音を響かせながら、石畳の温泉街をそぞろ歩く。手には大きな外湯巡りの鍵を持っている。いいね。これこそ、頭に思い描いた通りの温泉街だ。

温泉街を歩くドイツからきた旅行客
〈gonki〉の目の前にある三番湯〈綿の湯〉に入ろうとしていた、ドイツから来た旅行客。

実はこの風情が残ったのには訳がある。3階建てや4階建ての木造建築が重なり合うように連なっているため、建て替えや道路の拡張が厳しく、バブル期の開発から取り残されたゆえだ。このかけがえのない建物を守ろうと、温泉街の人たちが毎日当番で夜回り(夜警)を続けている。その甲斐あってのことでもある。

古き良き温泉街だが、それだけではない。横湯川を挟んで渋温泉の対岸にあるのが、200年以上清酒「縁歖」を造り続ける〈玉村本店〉である。日本酒もさることながら、「志賀高原ビール」を醸している酒蔵といった方がわかるだろうか。Uターン組の8代目社長・佐藤栄吾さんは外資系出身で、海外勤務も経験。様々な改革を重ねながら、地域発展に貢献中である。

長野〈ギャラリー玉村本店〉フレッシュホップIPA
本日の樽生ビールはフレッシュホップIPA。こちらはレギュラー700円。

湯田中では、旅館〈あぶらや燈千〉3代目社長・湯本孝之さんが温泉街をもり立てたいと、複合施設〈湯田中 ブルワリー コンプレックス ユー〉を誕生させた。おしゃれな個室の日帰り温泉に、クラフトビールとハンバーガーが楽しめるカフェやショコラの店などもあって、ふらっと来ても楽しめる。

また渋では、ずっと宿をやりたかったという石坂大輔さんがIターン。閉業する老舗旅館〈かどや〉を買い取り、チェックイン、アウト、布団の上げ下ろしなど、セルフ部分を増やし、格安宿に生まれ変わらせている。さらに、気軽に立ち寄れるバーを開き、海外からのゲストにも人気だ。石坂さんはもう一軒、〈小石屋旅館〉を買い取り、源泉がないのでシャワーのみにし、食事もなしで格安で提供している。こちらは90%外国人ゲストだそう。

そんなふうに老舗の9代目、17代目から“初代”まで、若き当主たちが時代に即した試みを続けている。

Uターン組に移住組。活況を呈する予感

この地に魅了されて移住した〈ゴンキ〉や、先に移住して農園を始めていた妹夫婦に触発されて、この地を選んだ〈よろしき日〉といった移住組もいる。「野菜も果物もおいしいんです。新鮮な野菜をおなかいっぱい食べて元気になってほしい」と、〈よろしき日〉の藤田紀世シェフ。

「移住のキーとなったのは、やはり食材。肉も魚も近くにいいものが揃ってるんです。そして前坂大根など、伝統野菜も残っている」と、〈ゴンキ〉の岸田陽一シェフ。時季になるとたくさん採れる根曲がり竹をピクルスにしたり、モロッコインゲンを常温発酵させたりと、地元食材の新たな捉え方も見せている。

若き当主たちのトライアルに加え、移住組の風土や食材の再発見によって、良きミクスチャーと新陳代謝が生まれている。彼らに共通するのは、渋や湯田中が好きだから、その風情を壊すことなく、地に足つけて新しい試みをしている点だ。まだまだ、面白い化学変化が起こりそうだ。

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