Watch

Watch

見る

5分で振り返る、サメ映画進化論

“サメ映画には無限の可能性がある。『ジョーズ』を超えること以外は──”これは、『サメ映画大全』という本の帯に書かれたコピーである。それほどまでに可能性に満ち溢れるサメ映画の長く膨大な歴史と現在を、同書の著者であるサメ映画ライター・知的風ハットさんが要点を抑えて解説してくれた。

text: chitekihuhatto / illustration: Rina Yoshioka

サメ映画におけるサメは、その長い歴史の中で進化を繰り返してきた。進化しすぎたあまり、今や収拾がつかないことになっているきらいもあるが、ともかく今回はその軌跡をたどっていこう。

1975年『ジョーズ』、1978年『ジョーズ2』

『ジョーズ』以前のサメは、その多くがごく普通のサメである。そもそも『ジョーズ』以前には、今でいう“サメ映画”らしいサメ映画などほとんど存在していない。『ザ・シャーク』のように、俗に“『ジョーズ』以前のサメ映画”などと呼ばれている映像作品もあるにはある。が、蓋を開けてみればなんてことはない、サメが舞台装置として少しばかり出てくるだけのクライム・サスペンスや、メロドラマだったなんてこともしばしば。少なくとも“サメ”そのものに関しては、さほど特筆すべき点はない。

さて、時は1975年。ピーター・ベンチュリーの原作小説を基にした、スティーヴン・スピルバーグ監督作『ジョーズ』が大ヒットを巻き起こし、その影響力が社会現象にまで発展する。

映画『JAWS』ブルーレイ
サメ映画というジャンルを生み出したとも言える金字塔。

『ジョーズ』に登場するサメは、その姿こそなかなか画面に映らないものの、“存在感自体は主役級の殺人マシーン”。海に陣取って人を襲い、はては船を沈める、血に飢えた大怪物と化しており、これまでの“映画に出てくるサメ”とは一線を画す暴れぶりである。

「さすがにやり過ぎだ」「普通、サメはそんな行動は取らない」といった類いの指摘・批判も、当時から多かったようだ。実在する元シャーク・ハンターのフランク・マンダス(『ジョーズ』主要人物の一人、クイント船長のモデルだとされている)などは、「馬鹿馬鹿しい」「俺はサメのアゴなんて絶対にゆでない」と皮肉交じりのコメントを残している。

しかしながら『ジョーズ』のサメは、“現実的にありえない怪物”ではあるにせよ、あくまで実在する生物の延長線上にいる。要するに、「サメが空を飛んだり、陸の上を歩いたりはしていない」。それはのちに公開された、よりケレン味の強い続編『ジョーズ2』でも同様である。

『ジョーズ2』では、前作以上にサメの怪物性が増しており、サメが海上でヘリコプターを襲うシーンまで存在する。娯楽性を重視し描写を派手に誇張した結果だろうが、それでもなお、サメはあくまでサメである。まだ。

1999年『ディープ・ブルー』

『ジョーズ』台頭以降、様々なサメ映画が作られ始めることになるわけだが、1999年の『ディープ・ブルー』がひとつの転機になる。『ディープ・ブルー』に登場するサメは、とある実験で高い知性を得たという、SF色の濃い設定が特徴の人食いザメ。通常のサメではできない動きもやすやすとこなし、登場人物を血祭りに上げていく。この“なんらかの科学実験なり、遺伝子操作なりでパワーアップしたサメ”という設定は、およそこの頃を境として、じわじわ用いられるようになる(ただし、数は少ないが『ディープ・ブルー』以前のサメ映画にも、類似の設定を使った作品は存在する。『ディープ・ブルー』が“先駆者”というわけではないため、そこは要注意)。

*こちらは続編である『ディープ・ブルー 2』の動画です。

90年代末から00年代初頭 巨大ザメ“メガロドン”を主役にしたサメ映画

一方で『ディープ・ブルー』の少し後から、太古の巨大ザメ“メガロドン”を主役にしたサメ映画がぽつぽつと登場。『シャーク・ハンター』、『ディープライジング・コンクエスト』、『メガロドン』といった低予算サメ映画を中心にして、全長何十メートルという巨大さがウリのメガロドンが大活躍。こうしたメガロドン物のサメ映画には、やれ潜水艇だの海底研究施設だのといった代物が大抵セットで登場するため、やはりどことなくSF系の雰囲気が漂っている。

ともかく90年代末から00年代初頭にかけては、“巨大化したサメ”や“改造されたサメ”が、その存在感を増していくこととなった(もちろん真面目なサメ映画だって、それらと並行して作られ続けてはいる。2004年の『ジョーズ 恐怖の12日間』などは良い例だろう)。

2009年『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』

サメ映画の進化の歴史を語る上で、絶対に欠かせない作品のひとつが、2009年の『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』だろう。長き眠りから覚めた巨大ザメ“メガ・シャーク”と、巨大ダコ“ジャイアント・オクトパス”が対決する、VS物のサメ映画、なのだが。特筆すべきはその発想の自由さであり、途中「サメがいきなり天高く飛び上がって、ジェット機を撃墜する」シーンなどは、大味ながらもインパクト抜群。当然本作は話題となり、以降サメが「空を飛んだり陸の上を歩いたり」するトンデモ系サメ映画が、毎年ハイペースで作られるようになる。

そして“メガ・シャーク”以降のサメ映画では、“巨大ザメ”および、「サメになにかしらのワン・アイデアを盛り込み怪物化させた」足し算方式のサメが目立つようになる。

もっとも2012年には、水没したスーパーマーケット内で普通のサメと戦う『パニック・マーケット3D』というサメ映画が、正統派の人気を博してもいるのだが。

2013年『シャークネード』

さらに2013年、「竜巻に巻き込まれたサメが、次々と空から落ちてくる」未曽有のサメ映画『シャークネード』が、海外SNSを起点として、とんでもない大当たり。この人気は絶大で、後続のサメも「電気を放つ」「宇宙にいる」「悪夢の世界を支配する」など急速に設定がエスカレート。ある意味『ジョーズ』以来の絶頂期を迎えている。

もっとも、この頃になるとさすがにトンデモ系のサメは“なんでもアリ”すぎて煮詰まり気味だ。

元々「サメに手当たり次第奇抜なことをやらせてウケを取ろう」という流れは今までにも見られたが、この頃にはその悪ふざけ部分ばかりがさらに先鋭化。“サメの姿をした悪魔”、“特に理由もなく浮遊するサメ”など、もはやサメ映画=なんでもアリという風潮に甘え、映像作品としては投げやり極まりない低予算映画も多い。

その反面、ここ最近は行き過ぎたトンデモさを抑え、せいぜい『ジョーズ』か『ディープ・ブルー』くらいの荒唐無稽さに留めたシリアス路線のサメが、さりげなく復権傾向でもある。

サメ映画のサメが、進化の先に原点回帰を果たすのか、それとも新境地を開拓するのかは、なんとも言い難い。ただひとつはっきりしているのは、進化うんぬんよりまず映画として面白いものを見せてほしいということだけだ。