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スモークサウナ文化を現代に伝える、フィンランドサウナ文化協会会長にインタビュー

フィンランドサウナ文化協会会長のサイヤ・シレンに、消えつつあるスモークサウナ文化とサウナ村と呼ばれる〈サウナキュラ〉についてお話を伺いました。

photo: Kenichi Murase / interview & text & edit: Yohei Kusanagi / editorial assistant: Yuji Nakano, Nao Uema, Kentaro Hashimoto, Orito Hamada / coordination: Ayana Kobayashi

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消えつつあるスモークサウナ。生きた文化として魅力を伝える

Saunakylä〉のルーツは、1979年まで遡ります。フィンランドの古いサウナ小屋であるスモークサウナが、フィンランドから消えつつあることを危惧した人たちが、何とかして残すために運動を始めたのです。

1970年代のフィンランドは、「どうすれば多くの外国人旅行客を呼び込めるだろうか?」というテーマで盛り上がっていました。その中で「サウナを体験できるようにすれば、消えつつあるスモークサウナの保存とともに、旅行客も呼び込めるのではないか?」というアイデアが、国の中で沸き起こりました。

当時の大統領はウルホ・ケッコネンという、サウナ外交で有名になった人物です。彼はスモークサウナ保存に興味を持ち、活動に対して政府から助成金も出すように指示しました。国内に残る古いサウナを探すために、大統領自ら各所に連絡するほど盛り上がりを見せました。

1982年、ムーラメという町に、3棟のサウナだけの〈ムーラメサウナ博物館〉が造られました。当初は、展示が目的であったため、実際にサウナに入ることはできませんでした。しかし、そのタイミングでケッコネンが次の大統領に交代。それに合わせるようにフィンランド政府からの助成金も減り始めました。

ただ、このプロジェクトはその後も長く続き、1994年の段階では29棟目のサウナが造られるほど拡大しました。でも商業的にうまくいかず、2010年に博物館は閉館します。

〈ムーラメサウナ博物館〉の経営が破綻したことは、新聞などで広く報道され、「この世界に類を見ないスモークサウナのコレクションが廃れてしまうのか⁉」と人々はショックを受けました。そのタイミングでヤムサの町に住むサウナ好きたちが、「何か自分たちにできないか?」と考え始めたのです。いつの間にか彼らと町のスモークサウナに携わる職人たちがつながりました。

フィンランド〈サウナキュラ〉サウナ室
スモークサウナ室内。水を流し込むと強烈な蒸気が!

グループを作り、「何とかサウナ博物館を継承できないか?」と、当時のムーラメ市長と交渉を重ねました。その結果、「営利目的ではなく市民に還元される形で活用するのならばよい」という条件で、ムーラメ市が施設を丸ごと譲ってくれることに。そこで私たちはフィンランドサウナ文化協会を立ち上げたのです。

引き取ってみると、使用に耐える状態のスモークサウナは皆無。大規模な修復作業が必要でした。土地を協会が購入し、移築するというアイデアは当時かなり話題に。移動する距離で費用が決まるのですが、平均して1棟約200万〜300万円。みんなでお金を集めましたが、移築されたサウナ小屋の修復費もかかります。

今度は「使えること」を念頭に置いて、協力し合いながら、一棟ずつ時間をかけて、丁寧に再生していきました。2012年に協会が立ち上がり、最初の移築が完了したのが15年です。

私たちは生きた文化として、スモークサウナの魅力を人々に伝えようと考えました。以前のような博物館形式はやめ、とにかくサウナに入り、本質を感じてもらうスタイルに変えました。

フィンランド〈サウナキュラ〉でのバーベキューの様子
火を囲んで語り合う人々。スモークサウナを中心とした昔ながらのフィンランド人の生活そのものを総合的に体験することができる。

協会なので、基本的に来る人も去る人も追わず。やりたいと手を挙げた人は、自由に入ってもらって建てる作業も暖める作業も手伝ってもらう。専門技術が必要な仕事なので、できる人たちがお互いに教え合う形で、どんどん参加者が増えていきました。

こうして、ここ数年間の夏の間だけ、実際にお客さんも呼びながら移築作業をしています。今年は約8,000人が来てくれました。湖畔での生活は、フィンランドらしい悠久の生活そのものなのです。

フィンランドサウナ文化協会会長のサイヤ・シレン
サイヤ・シレンさん。

CULTURE SAUNA TEAM “AMAMI”が行く欧州サウナ旅〈DAY10:フィンランド編〉

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