隈研吾事務所設計の巻き貝のようなサウナ
瀬戸内海に浮かぶ、現代アートの聖地として有名な直島。そんな直島にグランピング型リゾート施設〈SANA MANE〉がある。海が見える美しいロケーションに、ドーム形のテント群が並び、さまざまなアクティビティを楽しめる。
2019年からテントサウナを設置し、直島を訪れるサウナーたちから絶賛されてきた。そんな〈SANA MANE〉が満を持してサウナを造った。それも隈研吾建築都市設計事務所に設計を依頼し、巻き貝を想起するような独特なフォルムのサウナ〈SAZAE〉が新設されたという。
実際に対面してみると、あまりの巨大さに言葉を失ってしまう……。何も知らなければ、これを一目見てサウナとわかる人は皆無だろう。
テントサウナ時代から〈SANA MANE〉のサウナを監修するTTNEのサウナ師匠に話を聞いた。
チャレンジングな構造物。セオリーをすべて無視
「プロジェクトとしては3年前、サウナ好きのオーナー・眞田祐作氏と“直島ならではのアートサウナを造りたいですね”と話していた。それが1年半前に動きだし、隈研吾建築都市設計事務所の建築と建築照明計画株式会社(ALG)の照明というプロの集合体に。サウナ室に照明設計が入ったのは僕らも初めてです」
サウナ師匠は「タブーだらけだから最後まで不安だった」と話してくれた。というのも〈SAZAE〉は、サウナ設計ではダメだということをすべて実施しているチャレンジングな構造物だからだ。
そう、サウナの設計にはセオリーがある。自然換気や張り替えがしやすい木材を使うなど、一度設計をやった人間からすると守らなければならない不文律が複数存在するのだ。天井は低く、ストーブが低い位置に設置されるのは、熱が上に溜まりやすいために考えられたことだ。
「まず普通天井をこんなに高く造らないですよね(笑)。さらに熱気が上部に溜まるから、天井に空気が逃げる穴なんて造らない。これは設計の隈太一氏がトップライトにこだわったからなんですが、彼はオリジナルの吸排気システムを導入することで不可能を可能にしました。天井から下に空気を押し下げることによって、この高さでも室内はアツアツ。この不思議さは、ぜひ一度体感してみてほしいですね」
オーナー・眞田氏にも話を聞いてみた。
「約5000ピースの木材をヒダ状の重なりにして、158段組み上げています。これはもはやパズルみたいなもの。普通の施工会社で組むのは難しいので、繊細な作業ができる、友人の家具職人会社に建造を依頼しました。またアウトドア施設は、一般的に薪ストーブを使いますよね。私も最初は薪ストーブがいいと思っていたのですが、設計者の隈太一氏から建築デザイン上、電気ストーブにしたいと頼まれ、悩みました。結果電気にしてよかったのですが、一般的なセオリーをすべて無視してこのサウナが生まれています」
サウナ室に入り、天に向かって渦巻く壁面を眺めていると、まるで洞窟に迷い込んだよう。天井が高いので呼吸も苦しくなく、幻想的な世界での「ととのい」は新体験だ。
世界から注目される、日本を代表するサウナ建築が誕生した。