14日目:フィンランドサウナの聖地で、サウナ界の巨人に会う
エストニアから再びヘルシンキへ戻り、いよいよ帰国の準備だ。だがその前に立ち寄らなければならない聖地が僕らにはあった。
フィンランドらしい森の小道を抜けた先にある〈Suomen Saunaseura〉。「seura」とはフィンランド語で協会の意味。フィンランドサウナ協会のことだ。
この場所で僕は以前から会いたかった人物と約束をしていた。サウナ界の巨人、第5代国際サウナ協会会長であるリスト・エロマー氏から、サウナについて語り合おうと誘われていたのだ。
勉強家のエロマー会長は、拙著『日本サウナ史』(日本にどのようにサウナが入ってきたのかを調べた本/第1回日本サウナ学会奨励賞文化大賞受賞)も翻訳して読んでいるほど(すごすぎる!)。挨拶をすると、「ここは会員以外絶対に入ることができない特別な場所です。そこに入れるなんて、あなたは本当にラッキーですよ」と言われた。確かにそうだ。それも取材までさせてもらえるなんて大変な名誉だろう。
一通り対談を終えると、会長の好きなサウナ室「6番」のスモークサウナに連れていってもらった。扉を開け、70年近くも使用されている香り高い部屋に体を入れた瞬間、体感でわかる。もうこれ以上にない素晴らしいサウナ室だということが。
汗だくになると、一目散に桟橋を走り抜け、海へ飛び込んだ。フィンランドの海は淡水と混じっているのかベトベトせず、陸に上がっても嫌な感じがまったくしない。
桟橋の先に佇んでいると、自然と僕たちは笑い合っていた。上質なスモークサウナと、大自然のロケーションに誰もが感極まったのだ。
「それにしてもすごい国だ……」
美しい大自然の中で、僕たちはととのい切った。海の上を走り抜ける風が、蒸され尽くした体を包み込む。渾然一体、すべてが一つとなり、時間は忘れられた。フィンランドの美しさとサウナ文化の素晴らしさを体の底から味わった。
庭に戻ると、浴衣姿のエロマー会長がベンチで我々を待っていた。
「サウナガウンで一番上質なものは、日本の浴衣です」
そう語る会長の浴衣には将棋の駒の「王将」の模様が!まさにサウナキングという貫禄だ。「我々はもっと深く、サウナを探求していきましょう。それではまたお会いしましょう」
語り去るエロマー会長の大きな背中に我々は深々と一礼しつつ、より一層サウナのために頑張ろうと決意するのであった。