第二十三回「侵食」
激しく揺れるフェリーでKさんは吐き気に耐えていた。病に臥せた祖母のいる佐渡島まではまだまだ時間がかかりそうだった。ほかの乗客たちも船酔いにやられているようで、皆静かに身を縮こまらせていた。少しでも気を紛らわせたかったKさんは座席から窓の外を見た。真冬の日本海に雪が降り、薄暗い景色が続いていた。
その中に、ふと奇妙なものを見つけた。真っ赤な細長いものが蛇のようにくねくねと規則的な動きで波の上を浮遊している。海洋生物かと思ったがどうやらそうではなく、真っ赤な髪をなびかせながら飛ぶ人の頭というのが最も近いように思われた。
船が進むとやがてそれは見えなくなり、結局その正体はわからずじまいだった。数ヵ月が経ち、高校から帰る途中、後ろを歩いていた友達がKさんの髪をツンと引っ張った。
「なにこれ、髪が一本だけ変」。
抜いてみるとその毛は赤く染まっていた。探してみると、ほかにも数本赤い髪が生えていた。Kさんはフェリーで見たものを思い出した。あの日、偶然目撃したアレの影響かもしれない。赤い髪をすべて抜いた後も、それは時々生えてきた。Kさんは高校卒業後、地毛を見たくないがために髪を染め続けている。