第二十二回「忠告」
携帯の番号を新規で取得してから、Hさんのもとにおかしな電話がかかってくるようになった。「ゆみはいるか」。しゃがれた高齢の男性の声だった。「ゆみさんはいませんよ。番号をお間違いになっているかと」。
Hさんが言うと通話が切れるが、数ヵ月経つとまた同様に「ゆみはいるか」の電話がかかってきた。しばらくしてHさんは奇しくも“ゆみ”という名前の女性と知り合い、やがて付き合うことになった。ふと間違い電話の件を伝えてみると、ゆみさんは面白がって「今度その電話がかかってきたら代わってよ」と言った。
ある真夜中、2人で過ごしているとHさんの電話が鳴った。「ゆみはいるか」。彼女に“来た”と合図をして、Hさんは電話をスピーカーにした。「ここにいるよ」。ゆみさんが笑顔で答えた。すると、しゃがれた声が答えた。「あのな、蔵のな、子供のな……あかんで」。
それは、これまでとは異なる新しい言葉だった。それを聞いたゆみさんは悲鳴を上げ、携帯電話に飛びついて終話ボタンを押した。「お願い。この件はこれ以上なにも聞かないで」。ゆみさんは声を震わせながら言った。Hさんがそのあと何を尋ねても、彼女は何も答えてはくれなかった。