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深津さくらの実話怪異手帖:第十八回「星々」

怪談師・深津さくらが、自ら蒐集した実話の怪談を綴る。前回の「旅の出会い」を読む。

text: Sakura Fukatsu

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第十八回「予告」

もう人生終わりだ。Aさんはあるとき生きることのなにもかもが嫌になってしまった。最期の場所をどこにしようか。そうだ、山だ。山がいい。Aさんは車にキャンプの道具を載せて、人けのない道を辿り、誰にも見つからないような山奥で小さな野営を張った。持参したわずかな食料が尽きたら、自分の体が自然に朽ちるのを待とう。

真夜中、Aさんは巨大な絶望を抱えながら、満天の星が広がる夜空を見上げた。その中に、ひときわ光る星があった。眺めていると、不思議なことにだんだんと輝きが強く、まぶしくなる。やがてそこから無数の光る粒が降り注いできた。

ゆっくりとシャワーのように降るそれは、よく見ると体長5センチほどの小さなおじさんたちだった。ひかり輝く裸のおじさんが、絵画に描かれた天使のように腕を広げて舞い降りてくる。Aさんの肩や地面に当たると、輝きながら弾けて消えてしまう。

何が起こっているのかもわからないまま、Aさんはそれを受け続けた。やがて光が弱まり、元の暗闇に戻ると、Aさんはふと自分の中のある変化に気がついた。それまで心を埋め尽くしていた「死んでしまいたい」という気持ちが、すっかりなくなっていたのだった。

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